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「平和国家」はどこへ

首相、理念乏しき「反撃能力」 契機は総裁選、背景に安倍氏の影

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反撃能力の手段となる主なミサイル
反撃能力の手段となる主なミサイル

 岸田政権は2022年に安保関連3文書を改定し、「盾」だけでなく「矛」を持つ方向にかじを切った。「平和国家」はどこへ向かうのか。【「平和国家」はどこへ取材班】

 連載「平和国家」はどこへは全7回です。
 このほかのラインアップは次の通りです。
第1回 日本と台湾が連絡ルート構築 中国に対抗、水面下で設置
第2回 台湾有事の日米作戦計画、最終段階に 政府、4年前から想定
第4回 海底ケーブル巡る水面下の攻防 情報基盤に迫るロシアの脅威
第5回 初の国産機の夢破れ 防衛部門に配置転換
第6回 防衛の助成金、受けるべきか 歓迎と懸念 揺れる北海道大学
第7回 AIの防衛利用具体化 民間技術取り込み加速 進まぬ兵器規制

苦境に焦り 派内の慎重論退け決断

 政府は2022年12月、相手国のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有を決めた。戦後の安全保障政策は大きく転換したが、そのきっかけは約2年前。岸田文雄氏のあまり注目されなかった発信だった。

 「敵基地攻撃能力の保有について発信したいと考えています」

 岸田氏は21年3月下旬、自民党岸田派(宏池会)の幹部へ電話でもちかけた。派閥会長だが年長者には敬語を使う。幹部が理由を尋ねると「ある人から発信力が弱いので、そのくらい発信したらどうかと言われたんです」と漏らした。半年後の9月に迫った党総裁選への「再出馬」に向けて、党内で支持を広げようと躍起になっていた時期だ。

 岸田氏は安倍晋三氏の首相退陣表明を受けた、20年9月の総裁選で、菅義偉氏に惨敗して無役となった。党内では「岸田は終わった」とすら言われていた。岸田派は50人足らず。当時、最大派閥で100人近い細田派(現安倍派)を筆頭に、麻生派、二階派などが支持する菅氏が、総裁に再選される可能性は高いとみられていた。連敗を恐れて岸田派内では再出馬への慎重論が噴き出す。苦境を打開するため、安倍氏と連携して細田派の支持を取り付けられるかが鍵だった。

 宏池会は保守本流の名門派閥とされ、伝統的に軽武装・経済重視を主張してきた党内ハト派だ。派内では岸田氏に敵基地攻撃能力保有を表明するよう進言する若手グループもいたが、慎重論も少なくなかった。

 保有表明の相談を受けた岸田派幹部も「宏池会らしくない」と反対した。「安倍さんから言われたんですか」と問い詰めると、岸田氏は「直接ではないのですが」と言葉を濁しつつ、安倍氏周辺から保…

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