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世間に広く知られた出来事、制度、慣習。その「裏面」には、私たちからは見えにくい事実や疑問、物語が潜んでいる。記者が足を運び、関係者の証言や記録に迫った。
この連載は全6回です。
このほかのラインアップは次の通りです。
第1回 ドーハの悲劇、お守りに託した思い ゴール下に埋めた祈り
第3回 つながりたいのにつながらない? 相談ダイヤルの向こう側
第4回 林前横浜市長、IR巡り初めて明かした菅前首相への「直訴」
第5回 刺殺された石井紘基氏が残したメモ 教団と闘う住民支える「覚悟」
第6回 結婚しなきゃいけないの?「官製婚活」廃止した市長の真意
「河井元法相の指示だった」
私たちが唯一、その男性の近況を知ることができた数本のユーチューブ動画は、取材を進めていた2022年の暮れ、一斉に削除された。映っていたのは横浜市のネットコンサルタント業者の男性(38)。19年参院選の買収事件で公選法違反に問われた河井克行元法相=実刑確定=に指示されてネット上で架空の人間になりすまし、政敵を中傷していたとされる人物だった。「選挙広報のプロ」として政治を志す人に講演し、国会議員にネット戦略を指南してきた若手起業家は、なぜ道を踏み外したのか。
<対立候補のイメージを悪くするよう言われ、ネガティブな記事の工作をしていた。克行先生の指示だった>
20年に東京地裁で開かれた河井氏の妻、案里元参院議員の公判。証拠の一つとして読み上げられた供述調書の中でそう証言していたのが、この男性だった。
ここ数年、ネット上で政党による世論操作が疑われる出来事が相次ぐ。政権を称賛する一方で野党への攻撃を繰り返し、自民党との関係が取り沙汰されたツイッターアカウント「Dappi」。立憲民主党からの資金提供を伏せていたと批判されたネットメディアもあった。そんな中で浮かび上がった業者の存在に、私たちは関心を持った。
22年11月上旬。登記簿に記された、横浜スタジアムに近い雑居ビルの一室を訪ねた。企業や団体が共同利用するシェアオフィスだったが、利用者は男性について「何年も会ったことがない」と口をそろえた。
足跡をたどろうと関係者を訪ね歩いた。大卒後すぐ自民党衆院議員の秘書になり、09年に25歳で同党から横浜市議補選に挑んだ。「無駄遣い撲滅プロジェクトを推進します」とアピールしたが、次点で落選した。
その後はネットに活動の場を見いだした。ネット政治番組の制作にも携わる。キャスターの一人で男性と親交があった横浜市議は「高齢者比率などオープンデータを使って地域の将来を考えるサイトを作ったり、若者の投票率向上策を考えたり。選挙や政治に純粋で熱心だった」と振り返る。
一方で市議は、男性がこうした活動について「ビジネスモデルにならず、もうからない」とこぼしていたことを覚えている。ネガティブキャンペーンにも関心を示していたという。対立候補の政策や人柄の欠点を批判する手法で米大統領選にも用いられるが、身元を明かし、事実に基づく批判が前提とされる。「カウンター(対抗措置)として政治家はネガキャンもやっていかなければ、という見地を彼は持っていた」
ウェブやSNS(ネット交流サービス)を使った選挙運動が13年に解禁されると、政治家への評価をSNSから分析する男性の手法が脚光を浴び、講演会に招かれるようになった。…
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