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世間に広く知られた出来事、制度、慣習。その「裏面」には、私たちからは見えにくい事実や疑問、物語が潜んでいる。記者が足を運び、関係者の証言や記録に迫った。
この連載は全6回です。
このほかのラインアップは次の通りです。
第1回 ドーハの悲劇、お守りに託した思い ゴール下に埋めた祈り
第2回 中傷に手染めた「選挙広報のプロ」 炎上対策指南役が加害者に
第4回 林前横浜市長、IR巡り初めて明かした菅前首相への「直訴」
第5回 刺殺された石井紘基氏が残したメモ 教団と闘う住民支える「覚悟」
第6回 結婚しなきゃいけないの?「官製婚活」廃止した市長の真意
「SOSを出したいと思うのは…」
孤独やいじめ、身近な人からの暴力……。つらさや悲しみを抱える子どもたちに、さまざまな相談ダイヤルが「いつでも話を聞くよ」と呼び掛ける。だが記者は、そんな窓口の「つながりづらさ」を訴える声にも触れてきた。子どものSOSを、大人はちゃんと受け止められているのだろうか。相談ダイヤルがつながっている向こう側を、のぞいてみた。
東京都内で暮らす20代の女性は小学4年のころ、学校でもらった名刺サイズのカードにあった番号に電話をかけた。携帯電話はなく、自宅の固定電話を使った。だが10分ほど待ってもつながらない。祖父が帰ってくる気配に慌てて電話を切り、カードを隠した。
女性は母から暴力を振るわれるなどの虐待に遭っていた。同居の祖父母も暴力を受けていたが、世間体を気にして周りには絶対漏らさないよう言われていた。カードは、自室の机の鍵のかかる引き出しに隠していた。妹しかいなかったある日の夕方に「今がチャンス」と電話したのが最初で最後だった。「あれだけ待たされるのか」と思うと、もうかけられなかった。
「SOSを出せる、出したいと思うのは、一瞬なんです」。大人になった今も虐待を受ける夢を見るという女性は最近、精神的な不安定を感じて相談ダイヤルに電話した。でも、またつながらなかった。「せっかく勇気を出したのに、やっぱりSOSは届かないんだなって」
記者が相談ダイヤルの使いづらさを意識したきっかけは、家族の介護や世話を担う「ヤングケアラー」への取材だった。日中だけの相談体制への不満などとともに、つながりづらさを指摘する声もあった。
さまざまな相談ダイヤルがある中、全国統一の番号で広く周知されている「24時間子供SOSダイヤル」の実態を調べることにした。子どもの支援団体から「つながらない」という情報を聞くこともあった番号だった。
SOSダイヤルは「夜間や休日でも子どもの悩みや不安を受け止めることができるように」との安倍晋三元首相の肝いりで、文部科学省が2007年に設置し、15年にいじめに限らずSOS全般を受け止める現在の形とした。電話をかけた場所の都道府県教委や政令指定都市教委の相談窓口につながる。当初はいじめ相談専門だったが、現在はすべてのSOSに対象が広がり、フリーダイヤルでかけられる。通話料は国費で賄われ、24時間対応のための費用の一部も国から補助が出る。
つながりにくいのは本当なのか。22年10月末、文科省に問い合わせた。当初は「公表していな…
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