行き詰まる核燃サイクル 原発大国フランスの悲鳴
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鈍く輝く煙突が、空に突き刺さる。コンクリートと鉄が織りなす建物のシルエットは、巨大戦艦のようだ。フランス北西部、コタンタン半島にあるオラノ社(旧アレバ)ラアーグ再処理工場。1966年の設立以来、フランス国内のほか、日本を含めた外国からの使用済み核燃料を再処理し、原発で再利用するウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の原料となるウラン、プルトニウムを抽出してきた。
仏国内有数の原子力関連施設が集中するこの地では、2011年3月の東京電力福島第1原発事故後も、住民の原子力への支持は揺らがなかった。そして今、ロシアによるウクライナ侵攻が引き起こした資源価格の高騰や気候変動対策への意識の高まりが、温室効果ガスの排出量が少ない原発の再評価を促している。
想定外の抗議運動
しかし、原発に追い風が吹く中、コタンタン半島で、かつてない大規模な抗議運動が起きている。きっかけは、再処理工場の隣接地にフランス電力(EDF)が新たに計画した使用済み核燃料などの貯蔵プールだ。仏国内の原発から送られる使用済み核燃料が蓄積し、ラアーグ工場内の既存の貯蔵プールが満杯になりつつあるためだ。マクロン政権は昨年2月、原発6基の新設を発表しており、事態はさらに深刻化しそうだ。
EDFは当初、原発がある中部ベルビルシュルロワールに新たに貯蔵プールを建設する予定だった。だが、周辺住民の反対運動で計画は中止に。代替地として選ばれたのが、再処理工場のあるラアーグだった。EDF関係者は「既に原発関連施設がある場所以外に新施設を建設するのは難しいとの判断があった」と打ち明ける。
昨年6月18日。コタンタン半島の中心都市、シェルブールで約800人の住民が新貯蔵プールの計画中止を求めるデモを始めた。抗議運動は今も続いている。EDFにとって、この地での抗議運動は想定外だった。運動に参加する教員のティボー・カルムさん(29)は言う。「私たちはこれまで核のごみを受け入れてきた。だが今後、永遠に受け入れるつもりはない」。日本が核燃料サイクルの「手本」とする原発大国で、いま何が起きているのか。
破綻するサイクル たまる核のごみ
「核のごみはもう要らない」。6月の抗議デモでは、シェルブール市内にシュプレヒコールが響いた。壇上に立ったマチルド・ジローさんは「誰がこれを決めたのか。自分の都合のいいように物事を進めるのに慣れたパリの人たちではないか」と声を張り上げた。
現在、ラアーグ再処理工場にある4カ所の貯蔵プールの容量は計約1万4000トン。既に使用済み核燃料約1万トンが貯蔵されており、現在のペースでは30年ごろに満杯になる計算だ。このため、EDFは隣接地に面積2万平方メートルの新貯蔵プールを建設し、原発から出る使用済み核燃料6500トンを収容する計画を立てた。24年に着工し、34年の完成を目指す。総工費を約12・5億ユーロ(約1700億円)と見積もる。
工場を運営するオラノ社も、既存のプールで貯蔵する燃料の間隔を狭める「リラッキング」を計画し、容量を約3600トン増やす方針だ。だが、リラッキングは使用済み核燃料が高温化するなどの危険があり、周辺住民はこれにも反対する。
核のごみが蓄積する原因の一つには、…
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