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知りたい聞きたい お金のはなし

人生100年時代、より豊かな生活を送るためには「お金」と向き合うことが不可欠です。この特集ページでは、お金に関するさまざまな話題を取り上げ、「お金とわたし」をテーマにした著名人インタビューも随時掲載します。

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お金持ちのゴミには〇〇がない? 清掃芸人・マシンガンズ滝沢さん

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東京23区内でゴミ収集作業員として働くお笑いコンビ「マシンガンズ」の滝沢秀一さん=太田プロダクション提供
東京23区内でゴミ収集作業員として働くお笑いコンビ「マシンガンズ」の滝沢秀一さん=太田プロダクション提供

 各界の著名人が語る「お金とわたし」。今回は、「ゴミ清掃芸人」として知られるお笑いコンビ「マシンガンズ」の滝沢秀一さん(46)です。妻子を養うためにゴミ収集会社に就職。それ以来、ゴミや環境問題をテーマにした著書を次々出版し、発行部数は累計15万部を超えています。そんな滝沢さんが、お金持ちの人たちが出すゴミを見て自分もまねをしたこととは――。【野村房代】

 ――奥さんの妊娠を機にゴミ収集会社に就職したそうですね。失礼ですが、お笑いの収入はどれくらいだったのですか。

 大学在学中に、カルチャースクールで出会った相方(西堀亮さん)とコンビを組んだのですが、一番仕事がない時は月にライブ1本だけ。1000円の報酬から事務所に抜かれて、税金取られて、630円。さらにそれを2人で分けるから手取り315円。現場まで行く電車賃を差し引いたら結局マイナスなんです。そういう時期が10年はありました。

 2007、08年のM―1グランプリで準決勝まで進んで、お笑いブームの端っこに乗っからせてもらったお陰で、月の手取りが70万円くらいの時期も5年ほどありました。でも収入がほとんどゼロという時期の方が長いから、平均するとかなり少ないです。

 居酒屋とか看板持ちとか、ありとあらゆるバイトで食いつなぎましたが、36歳の時に妻が妊娠。出産費用が40万円と言われてバイトを探しても、年齢的に厳しくなってきて。9社落とされた後で、12年に友達の口利きで運良く就職できたのがゴミ収集会社でした。

 昔、父親から「お前が生まれたから歌手の夢を諦めた」と言われて「俺のせいか……」と複雑な気持ちになったので、子どもを理由にお笑いを辞めるのは嫌でした。芸人の仕事を続けるために、ゴミ収集の仕事を「副業」にしようと思ったんです。でも40歳になる年に第2子が生まれて、ゴミ収集が「本業」と腹をくくりました。

 子どもが生まれてからは、毎月23万5000円を妻に渡すと決めて、収入が少ない時もお金を工面しました。クレジットカードを作ったら、3000円分とか5000円分のポイントがもらえることがありますよね? それをあてにして、カードを8枚作ってオムツを買ったこともあります。

ゴミ収集は社会的インフラ

 ――22年、大学生向け就職活動情報サイトが公開した「底辺の仕事ランキング」(現在は非公開)が「職業差別を助長する」と問題になりました。ゴミ収集作業員も含まれていましたが、収入は低いのでしょうか。

東京23区内でゴミ収集作業員として働くお笑いコンビ「マシンガンズ」の滝沢秀一さん=太田プロダクション提供
東京23区内でゴミ収集作業員として働くお笑いコンビ「マシンガンズ」の滝沢秀一さん=太田プロダクション提供

 僕がもらっている具体的な金額は言えませんが、一般的に常勤で年収240万~300万円が相場で、日給制です。今は原稿執筆や講演といったゴミ収集以外の仕事も増えてきたので、非常勤で週1、2回、ゴミ収集しています。

 朝5時に起きて、6時半に出社。8時から回収を始めて、2トンのゴミを積める収集車がいっぱいになると清掃工場に戻ってゴミを降ろし、次の現場へ。それを6回繰り返して、帰宅は夕方5時ごろになります。

 肉体的にきついですし、信じられないことに、小便が入った牛乳パックやむき出しの包丁が捨てられていたり、「ゴミ屋が!」と怒鳴られたり、理不尽なことも多い仕事です。

 ランキングにあげられた職業に共通するのは、「労働量の割に低収入」ということですよね。でも、誰かがやらなければ社会が成り立たない仕事。もしゴミ収集作業員が仕事を放棄したら、町にはゴミがあふれて、ゴキブリやネズミだらけになるでしょう。そうすれば、感染症や病気も蔓延(まんえん)します。そういう意味で、ゴミ収集は水道やガス、電気と同じインフラだと思っています。

 アメリカではゴミ収集で年収1000万円もらえることもあるそうで、5人の募集に1000人くらい集まると聞きましたが、日本では慢性的な人手不足です。僕の知り合いは第2子が生まれたという理由でゴミ収集作業員を辞めたのですが、そうさせる社会構造がおかしい。

 でも、僕はゴミ収集を本業と決めてから、「やるからには日本一のゴミ収集作業員になってやろう」と思いました。どんな仕事でも、何を学んで吸収するかが大事。ゴミって人の生活の出口だから、うそがないんですよ。「世界の縮図」であるゴミからは、本当にいろいろなことが見えてきます。

ゴミの量は貧しさに比例

 ――ゴミ収集を通じて、「お金持ちと庶民の違い」が分かったそうですね。

 東京23区内のいろんな場所で回収していますが、お金持ちエリアと庶民エリアとで全く違うのが、ゴミの量。お金持ちの方が物をたくさん買って捨てている、と思われがちじゃないですか。実は逆で、お金持ちになればなるほど少ない。

 お金持ちにもランクがあって、僕は松竹梅で分けています(笑い)。松のゴミになると本当に生活しているのかって思うくらい少なくて、「自分が認めた物以外には1円も払わないぞ」っていう信念が漂っている感じです。

 庶民エリアからはチューハイ缶、たばこ、100円ショップのかご、洋服が大量に出ることが多いのですが、お金持ちエリアでそういうことはない。一般人のゴミには、安いけど長持ちしない「消え物」が多くて、お金出してゴミを買ってるんじゃないかって思うくらいです。だから、ゴミの量は貧しさと比例しているような気がします。

 そうした違いに気づいて「お金持ちのゴミをまねしたら自分もお金持ちになれるんじゃないか」と思い、徹底的にゴミを減らすようにしたんです。

 ――ゴミを減らすために、どんなことをするのですか。

 まず弁当、ペットボトルを買わない。たばこもやめました。野菜は皮も種も捨てないで食べる。生ごみはコンポスト(土壌の微生物で分解させる装置)で処理します。紙類は、個人情報が書かれた部分だけ切り取ってシュレッダーにかけて、残りは古紙回収に出す。

 シュレッダーにかけた紙は、使用済みの食用油に混ぜて固めると固形燃料になるんですよ。非常用として置いているのと、キャンプ好きな人に安く売れないかなあなんて考えています(笑い)。それだけで月5万円以上は節約できるので、そのお金を「使ったつもり貯金」して、子どもの教育資金に充てています。

最近、一番お金を使ったのは…

 ――ゴミを減らす、というのは無駄遣いしない、ということですね。では何にお金を使うのですか。

東京23区内でゴミ収集作業員として働くお笑いコンビ「マシンガンズ」の滝沢秀一さん=太田プロダクション提供
東京23区内でゴミ収集作業員として働くお笑いコンビ「マシンガンズ」の滝沢秀一さん=太田プロダクション提供

 いい人アピールみたいでちょっと言いにくいですが、寄付ですかね。税金をなるべく払いたくなくて(笑い)。少額ですが、WFP(国連世界食糧計画)とウォーターエイドジャパン(途上国に水を届ける国際NGO)に毎月、寄付しています。

 芸人として食えない時期が長かったから分かるのですが、空腹の苦しみって一番耐えがたいんです。それから、コロナ禍で手洗いが必要なのに、きれいな水をくみに行くのに4時間かかるような国もあると聞いたので。

 あとは洋服のレンタルサービスに月8000円払っています。人前に出る仕事柄、ある程度きれいな服が必要なので、どんどん増えてしまうんです。レンタルではスタイリストがおしゃれな服を見繕ってくれるのでありがたいですし、ゴミにならない、家にもスペースが生まれるからちょうどいい。

 アウターはレンタルできないので、最近はスタイリストに教えてもらった3万円のコートを、清水の舞台から飛び降りる気持ちで買いました(笑い)。でもそれだけ思いを込めて買うと、すごく大事にするんですよね。

 最近で一番お金を使ったことといえば社団法人の設立費で、30万円くらいかかりました。21年に、みんなでゴミを減らすための活動をするオンラインコミュニティー「滝沢ごみクラブ」を始めて、その運営のために設立したのですが、税理士さんを頼むのに必要で。自治体と仕事をすることが多いので、社団法人の方がやりやすいんです。

 僕一人でゴミを減らそうと発信するより、全国各地に「ゴミ先生」がいたらいいと思っていて、法人ではそういう人を養成する講座も開けたらと考えています。

ゴミ削減に必要なのは「リスペクト」

 ――現在はゴミ収集の仕事をしなくても十分暮らせるのでは。続ける理由はなんですか。

 僕はお笑いのネタのためとか、仕事を増やすためにゴミ収集作業員になったわけではないのですが、ゴミ収集を始める前と比べれば仕事量は格段に増えました。芸能かゴミ収集のどちらかを毎日、必ずやっているので今は休みなしです。

 でも芸能は浮き沈みの大きい仕事だと身をもって実感しているので、「ダブルワーク」をすることで、精神の安定が保てているところもありますね。芸能の仕事で笑いが取れなくても、汗水垂らしてゴミ収集の仕事をすれば忘れられるし、ゴミ収集で嫌なことやきついことがあっても、本に書いたりネタにしたりすることで昇華できる。というか、ゴミ収集に関係ない仕事のオファーはまずないから、純粋なお笑い芸人としては、ほとんど活動していないんです(笑い)。

 ゴミ収集では本当に驚くことがあります。新米の時期に、まだ食べられる米が大量に捨てられていたり、お歳暮やお中元の時期に未開封の高級ゼリーセットやメロンがまるごと捨てられていたり。そういった食品ロスの問題も、ありえないゴミの出し方をするのも、効率やスピードを重視する社会の中で従事者の「顔が見えない」からじゃないでしょうか。

 だから僕は、ゴミを減らすには3R(リデュース=削減、リユース=再利用、リサイクル=再資源化)に「リスペクト(敬意)」を加えた4Rが必要、と訴えています。

 僕がゴミ収集していることが知られてから、芸人仲間が「滝沢が収集するかもしれないから、ちゃんと分別することにした」と言ってくれたり、所属事務所の太田プロでも分別が徹底されるようになったりしました。どういう人たちが収集しているのかが分かれば、ゴミに気を使うようになると思うんです。そのために、子どもの頃からゴミについて考える教育が必要だと思っていて、今は紙芝居を作っています。

 滝沢秀一さん

 1976年、新潟県生まれ。大学在学中の98年にお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。2012年に東京都内のゴミ収集会社に就職。著書に「このゴミは収集できません」(白夜書房)、妻の友紀さんが漫画を描いた「ゴミ清掃員の日常」(講談社)、イラストレーターの326さんと共著の絵本「ゴミはボクらのたからもの」(幻冬舎)など。環境省のサステナビリティ広報大使にも選ばれている。

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