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老舗酒蔵が北の大地へ 酒造りにも温暖化の脅威

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岐阜県中津川市から雪深い北海道北部の東川町に移った三千櫻酒造の酒蔵=同町で2023年1月14日、土屋信明撮影
岐阜県中津川市から雪深い北海道北部の東川町に移った三千櫻酒造の酒蔵=同町で2023年1月14日、土屋信明撮影

 北海道・大雪山系旭岳のふもと、東川町にある酒蔵で日本酒の仕込みが続いている。鉄骨2階建ての真新しい蔵は雪に覆われ、この季節は最低気温が氷点下10度を大きく下回る日も珍しくない。地吹雪で周辺の道路が見えなくなることもある。

岐阜から移転、3度目の冬

 酒造りを担うのは、1877年に創業した「三千櫻(みちざくら)酒造」だ。岐阜県中津川市から1500キロ以上移動して蔵ごと移転し、東川で3度目の冬を迎えた。杜氏(とうじ)も務める6代目の山田耕司社長(63)は「酒造りには寒い方が良い。空気中に雑菌が少ないうえ、蒸し米がよく冷える」と話す。

 岐阜県は長良川、飛驒川、木曽川といった清流に恵まれた酒造りの適地だ。県内には約50の蔵元があり、全国有数の酒どころとして知られる。140年以上そこで酒を醸してきた三千櫻酒造が、ゆかりのない北海道に移転したのはなぜなのか。

気温上昇で温度管理難しく

 酒造りには徹底した温度管理が欠かせない。三千櫻酒造は中津川で、木曽川支流の水を使って酒造りを続けてきたが、気候変動に伴う気温上昇や近年の暖冬続きで、温度管理は一筋縄ではいかなくなっていた。

 創業以来、増改築を繰り返して使い続けていた酒蔵の傷みも深刻だった。「蔵の老朽化に加え、地球温暖化の影響で年々酒造りに難しさを感じるようになった」(山田さん)。

 2019年、山田さんは東川町が町内初の酒蔵で酒造りを担う事業者を公募していることを知った。道内屈指の米どころで、町は「地酒を誕生させたい」と考えていた。

 東川町の年平均気温は6・5度。13・5度の中津川市よりはるかに寒冷な気候だ。町が酒蔵を用意し、蔵元が酒造りを担う「公設民営」制度で、蔵を建て替える資金の負担がないのも魅力的だった。

 「東川町には大雪山系の澄んだ伏流水がある。蒸し米を冷やす際の問題も解消できる。酒造りに最適な場所だ」。山田さんは移転を決め、公募に手を挙げた。

岐阜の蔵では大量の氷で低温…

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