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19年前に急逝した17歳、伊豆大島の家族が作る生きた証し

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高校2年生だった頃の白井祐太郎さん=家族提供
高校2年生だった頃の白井祐太郎さん=家族提供

 東京・伊豆大島の高校で農業を学んでいた17歳の少年が2004年に急逝した。喪失感の中、家族が手探りで始めたのが、島特産の唐辛子を使った商品作りだった。少年のあだ名にちなんだ「TARO’s」(タローズ)という屋号を掲げて事業を続けてきた家族の胸には、少年が生きた証しを残したいという思いがある。

 昨年11月初旬、島北部の港に近い民家にある加工所で、TARO’s代表の白井三保子さん(62)と長女江莉さん(37)が、刻んだ青唐辛子を入れたしょうゆの出荷作業に追われていた。大島町優良特産品のシールを瓶に貼り、丁寧に箱詰めする。三保子さんの夫長敏さん(66)を含めた3人で手作りしている。

 大島は火山島で水はけが良く、唐辛子が特産品だ。作っているのは、郷土料理「べっこう」(魚の唐辛子しょうゆ漬け)用の調味料など7種類。うち6種で赤く熟す前の青唐辛子を使う。むせるほど辛く、リピーターも多い「青唐がらし粉末」は、唐辛子を機械で20時間乾かして作る一品だ。三保子さんは誤って加工所に粉が舞った経験を振り返り、「大惨事。もうダメかと思った」と笑った。

 そんな家族の日常を、居間の仏壇に飾られた遺影が見つめている。長敏さん、三保子さんの長男祐太郎さんだ。江莉さんの1歳下の弟にあたる。

突然の別れ

 祐太郎さんは都立大島高農林科で農業を学び、トマトの糖度を調べる研究などに取り組んだ。体調が急変したのは高校3年だった04年10月。入浴中に意識を失ってヘリコプターで島外の病院に救急搬送され、集中治療室で懸命の処置を受けたが、息を引き取った。

 照れ屋で心が優しく、友人に慕われた祐太郎さん。家では、両親がけんかすると「あんたら、そこに愛はないの?」とたしなめることもあった。家族をそっと包み込む「クッションみたいな子だった」と長敏さんは表現する。亡くなった半年後の卒業式では、友人が「一緒に卒業したい」と学校にかけ合って「卒業証書」が特別に用意され、3人で受け取った。

 あまりに突然だった別れに、家族は苦しんだ。江莉さんはショックで仏壇の供え物しか口にできなくなった。一人にしておけず、保険の外交員だった三保子さんは江莉さんを車に乗せ、顧客の元を回ったこともある。三保子さんは「先が見えないトンネルの中をもがきながら生きていた。家族が壊れていくように感じた」と当時を振り返る。

唐辛子使った商品作り…

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