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青嵐の旅人

天童荒太さんの初の新聞連載小説。幕末・明治の激動期を、中央ではなく地方から、市井の人々の視点で見つめる物語です。

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青嵐の旅人

/4 天童荒太 高杉千明・画

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高杉千明・画
高杉千明・画

 痛みが強そうなので、丸薬を三粒、手のひらに取り、水の入った竹筒と差し出す。

 男は、彼女の言葉に反応して、手を伸ばしかけた。だがよほど痛むのか、その手を自分の腹部に引き戻し、食いしばった歯の間からうめき声を漏らす。

「これは、弘法大師(こうぼうだいし)様がじきじきに薬草を選び、苦しむ民に与えるようにと、作り方を修験者に伝えたという謂(いわ)れがあるものです。どうぞお試しになってください」

 男はふたたびその薬を飲みたいという仕草は見せるのだが、肝心なときに痛みが増すらしく、薬を手にすることさえできない。

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