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痛みが強そうなので、丸薬を三粒、手のひらに取り、水の入った竹筒と差し出す。
男は、彼女の言葉に反応して、手を伸ばしかけた。だがよほど痛むのか、その手を自分の腹部に引き戻し、食いしばった歯の間からうめき声を漏らす。
「これは、弘法大師(こうぼうだいし)様がじきじきに薬草を選び、苦しむ民に与えるようにと、作り方を修験者に伝えたという謂(いわ)れがあるものです。どうぞお試しになってください」
男はふたたびその薬を飲みたいという仕草は見せるのだが、肝心なときに痛みが増すらしく、薬を手にすることさえできない。
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