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青嵐の旅人

天童荒太さんの初の新聞連載小説。幕末・明治の激動期を、中央ではなく地方から、市井の人々の視点で見つめる物語です。

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青嵐の旅人

/10 天童荒太 高杉千明・画

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「あちゃ、おまん……おなごじゃったんか」

 龍馬が頭をかき、「すまんことを言うた」

「いえ、よく間違えられますから」

 ヒスイは恥ずかしくて、つい顔を伏せた。

「まあ、見た目からでは、仕方がないかの」

 俊平も苦笑いして「明王院は伊予の修験道場で、古くから道後の湯を管理している話は有名じゃ。その道後で、へんろ宿と言えば、さぎのやが、歴史もあり、国ざかいの土佐の村々にも知られちょる。龍馬が剣術詮議(せんぎ)の名目で、讃州(さんしゅう)から長州へ向かう先日の旅のおり……伊予松山藩に入るなら、さぎのやに泊まり、道後の湯につかってみいと教えたろう」

「ああ、そのつもりじゃったが、向き合う内海が穏やかなせいか、人がみな良く、のんびりしちゅう。親藩でもあり、いまのわしには居心地が悪かった。ゆっくり湯につかる気にもなれず、そそくさと船に乗ったきに」

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