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親子と気軽にいうが、考えてみたら他人である。この連載では慣例上、息子と呼んでいるが、あっしには関わりのない別世界の人間だと、今回の事故、それに続く旅を通してよくわかった。
私が彼と暮らしたのは、彼が生まれた1991年初夏から彼が東京の大学に入るまでの18年にすぎない。その後の12年間は、一時一緒にいたことはあっても、全く別の人生を歩んできた。つまり、私とは考え方がまったく違い、今では息子というより昔からのなじみ、友人という方が正しい感じだ。
息子が切断した指の手術を無事終え、退院してくるまでの4日間、私はくよくよと彼の行く末を案じた。右手親指の先がないといろいろと不便だろう。ガイドやインストラクターなどクライミングの仕事もどうなのか。これを機に岩登りをやめた方がいい。チリは握手文化の国だ。右手を差し出すたびに「おっ、どうしました」と聞かれ、いちいち説明するのも嫌だろう。何か手に職をつけるにしても、親指の先がないとハンディになる。就職…
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