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白石一文さんの『松雪先生は空を飛んだ』上・下巻(角川書店)は、文字通り空飛ぶ人間が登場する。めくるめくエンターテインメントであり、最後にガツンと一撃を浴びせてくる。
全14話で構成され、1話ごとに語り手が異なる。スーパーに勤める男性や、不実な男に翻弄(ほんろう)される女性らが、それぞれの人生を多彩に語る。いずれにも空を飛ぶ人物が関係してくる。第3話あたりから彼らの糸が触れ合う兆候を見せ始め、一方で、飛行機事故で唯一助かった巨大スーパーの創業者が、人捜しを命じる。その探索は空飛ぶ人間につながるのか――。
糸はこれでもかというくらい周到に張りめぐらされ、どの一文もおろそかにできない。普通ならこの関係性は鼻白むものだが、壮大な絡みがいっそ気持ちよく、絡む理由もちゃんとある。さらに、あちこちに潜む小さな謎を少し後に引っ張って解く叙述や、ファンタジー要素を溶け込ませた地道な生活描写などにはまって、ページを繰る手が止まらない。そして、コロナ禍の現代が舞台となる最終話で、飛ぶことの意味が改めて明示された時、…
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