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視覚障害者の転落事故 安全な駅への対策さらに

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 鉄道駅ホームの安全対策はこの半世紀で進んだが、視覚障害者の転落事故はなくなっていない。

 1973年2月1日、目が不自由な上野孝司さんが旧国鉄山手線・高田馬場駅のホームから転落し、電車にはねられて亡くなった。点字ブロックがなく、対策の不備が問題になった。

 当時42歳だった上野さんは5年前に失明した。現場近くの学校で鍼灸(しんきゅう)師の資格を取り、結婚を控える中での悲劇だった。

 親族が75年、旧国鉄の責任を問う訴訟を起こした。支援者は「駅のホームは視覚障害者にとって『欄干のない橋』だ」と訴え続けた。10年にわたる訴訟は、旧国鉄側が賠償と「安全対策に努力する」ことを約束して和解した。

 この裁判をきっかけに、利用者の多い駅を中心に点字ブロックの設置が広がった。2020年度末時点で、1日の平均利用者が3000人以上の駅の97%余で整備されている。ただ、3000人未満の駅では43%弱にとどまる。

 近年はホームドアの設置も進められているが、鉄道会社間で、ばらつきがあり、全体ではまだ1割程度だ。20年春に全駅設置を完了した東急電鉄のような例があるものの、JR各社や全国の私鉄の多くは整備途上である。国は21年、駅のバリアフリー化のための費用を運賃に上乗せできる仕組みを導入し、設置を促している。

 新たな課題も浮上している。全駅の半数近くを占める無人駅への対応だ。昨年12月には、駅職員が常駐していない大分県のJR津久見駅で、片目が不自由な80代の女性が列車にはねられて亡くなった。駅には、非常停止ボタンも待避スペースもなかった。

 ITを活用して人手不足を補う試みもある。近畿日本鉄道は白杖(はくじょう)を持った人を感知する改札システムの実証実験を続けている。ただ、機械頼みには限界も指摘される。無人駅では、地元の自治体が見守り業務を請け負うことも検討すべきだろう。

 国土交通省によると、21年度のホームからの転落は1429件で、酒に酔った乗客も少なくない。視覚障害者の転落は28件だった。

 視覚障害者が安心できる駅は誰もが使いやすいはずだ。そのための手立てを尽くす必要がある。

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