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バイデン氏の議会演説 内向きの姿勢を懸念する

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 激動する世界を安定させるために米国が担う役割は大きい。その責任をどう果たすのか。

 バイデン米大統領が連邦議会で一般教書演説を行った。ロシアによるウクライナ侵攻が続き、中国が軍事的な緊張を高める中だけに、その内容が注目された。

 ウクライナに関して「必要な限り共にある」と支援継続を約束したが、停戦に向けた外交戦略は示さなかった。

 中国から飛来した気球の撃墜について「米国の主権を脅かした」と主張するだけで、緊張を管理する方策には踏み込まなかった。

 北朝鮮やイランの核問題には触れず、中東問題を避け、途上国支援を素通りした。気候変動や感染症などの課題も詳述しなかった。

 これでは、国際秩序の安定回復に向けて、どのような外交を展開しようとするのかが伝わらない。

 際立ったのは、国内政策の実績をアピールすることにほとんどの時間を費やしたことだ。

 失業率は過去50年で最低水準となり、1200万人の新規雇用を生み出したと自画自賛した。新型コロナウイルス感染症を制御し、南北戦争以降で最大の民主主義の危機を持ちこたえたと主張した。

 「楽観的で希望を持ち、前を向く」ことが重要だと言う。だが現状はそれほど明るいのだろうか。

 政府のインフラ整備事業に使用する建設資材は「すべて米国製に限ることを新たな基準とする」と表明し、万雷の拍手を浴びた。

 内需喚起が狙いだろうが、内向きに過ぎる。安価な輸入品より高価な国産品を使えばコストはかさみ、インフレ対策の足かせになりかねない。

 保護主義的な姿勢は、中国との競争を念頭に先端半導体や電気自動車の製造を国内で囲い込もうとすることにも表れている。これには欧州などの同盟国も反発する。

 2024年の大統領選を控え、国内向けに成果を強調するのは理解できる。昨年の中間選挙で民主党が下院で過半数を失い、対中強硬派の多い共和党の協力を得る思惑もあるのだろう。

 しかし、自国の利益を追求するばかりに国際社会や同盟国の信頼を損なうなら、米国にとっても得策ではない。「自国第一」一辺倒にならない賢慮が必要だ。

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