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日本ではゲームといえばテレビやスマホがメインですが、近年、対面で行う非電源ゲームも注目を集めています。人気のボードゲーム・カードゲームを紹介します。
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たとえば皆さんがボードゲームやカードゲームを作ってみたいと考えたとしましょう。アイデアを練り、アートワークをデザイン。まずは同人作品としてゲームマーケットに出品することを目指します。では印刷はどうするか。専門印刷会社の「萬印堂」(東京都北区)が有名ですが、関西でもきめ細かなサービスが売りの老舗印刷会社があります。
ジュニアスポーツ用カードから
旅行パンフレットなどがメインの大阪の老舗総合印刷「大興印刷」。神戸の人工島・ポートアイランドにその工場がありました。案内していただいたのは、事実上のボードゲーム製作部門といえるコミュニケーションデザイングループの山下実さん(41)。高校時代からトレーディングカードゲーム(TCG)に親しみ、ボードゲーム・カードゲームに大興印刷が進出したキーマンです。
同社がカード印刷に進出したのは2011年。高本隆彦社長(52)の子供がジュニアサッカースクールに所属していたことがきっかけといいます。プロサッカーチームなら試合後は両チームでユニホーム交換をしますが、少年チームでは難しい。そこで高本社長が発案したのが選手自身をカード化して交換する「エイエイオー・カード」です。11年度の大阪府「おおさか地域創造ファンド」の支援事業にも採択され、インターネットサイト(https://aiaio.net/)を展開しています。
TCGで大躍進
12年にはTCGのカード作りの依頼が取引先の役員からあり、本格的なゲームカード作りに乗り出しました。ところが大量に在庫が残ってしまったため、フランスで開かれている日本文化の総合博覧会「ジャパン・エキスポ」に持ち込むことに。作者と高本社長らで駆け回って展示ブースを確保。その過程で欧州の印刷会社とのコネクションができたといいます。
そのかいもあってTCG「Force of Will(フォースオブウイル)」は16年に北米TCGランキング4位と大人気に。山下さんは「カード製作の第1次黄金期だった」といいます。しかし人気は長続きせず、山下さんを中心に次の展開を考えることに。ボードゲーム人気の高まりを受け、21年より事業部であり自社ブランドでもある「octpath(オクトパス)ボードゲーム研究所」を立ち上げ、主に国内の同人作品を手がけることになりました。単に印刷するだけでなく、共同開発やテストプレー、販売サポート、さらにはクラウドファンディングによる資金調達まで相談に乗ってくれるのです。これまで16作品の印刷に関わり、人気の「ナナカードゲーム」(宮野華也作、21年初版)も同社工場で印刷されました。
疑似エンボスやコールドフォイル印刷も
印刷工場というとインキのにおいと騒音というイメージですが、大興印刷の神戸ポートアイランド工場はコンクリート打ちっぱなしと青い壁がおしゃれな2階建て。窓には布への印刷見本が。エントランスを入るとすぐに商談スペースがあり、奥の工場は清潔で、自慢の枚葉印刷機が静かに作動しています。ニスを使って表面にざらつきやツヤを表現する「疑似エンボス」、圧着した箔(はく)の上から印刷できる「コールドフォイル」などの特殊印刷も得意で、カードゲームと相性がいいですね。
大興印刷では、あえてカード印刷の単価をホームページに掲載していません。山下さんは「枚数やどのようなカードにするかによって単価は大きく変わります。カードの種類1枚削ってもらうだけで劇的にコストダウンできる場合もあります。きめ細かなサービスで勝負したい」と意気込んでいます。大手印刷会社では難しい小ロットでも相談に乗ってくれ、実際に大学生の卒業制作で2部だけ印刷したこともあるそうです。
今後は、関西のクリエーターとのつながりを深めるとともに、防災や防犯など社会問題をテーマにした「シリアスゲーム」にも力を入れていきたいとのこと。デジタル媒体の伸長で印刷業界を取り巻く環境は厳しさを増していますが、TCGを模した印刷提案書「大興印刷の逆襲」を製作するなど同社は遊び心もたっぷり。「カードなら大興印刷」を目指してきょうも工場は稼働しています。【野地哲郎】=次回は2月25日掲載
「大興印刷」データ
1947年創業◆本社 大阪市港区弁天1の2の1 大阪ベイタワー オフィス16階◆従業員数53人(2020年1月現在)◆ホームページ https://www.daiko-printing.co.jp/