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大手電力の不正閲覧 競争ゆがめる背信行為だ

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 市場競争をゆがめる大手電力会社の行為がまた発覚した。企業向け電力販売を巡るカルテルに続く不祥事である。

 関西電力など6社の小売り部門が、本来、中立であるべき送配電部門が持つ新電力の顧客情報を不正に閲覧していた。

 経済産業省の電力・ガス取引監視等委員会(電取委)の立ち入り検査を受けた関電では常態化していた。昨春以降、不正閲覧は4万件超に上り、社員や委託先社員1000人以上が関与したという。

 不正に入手した新電力の顧客情報の一部は小売り部門が営業目的に使っていた。森望社長は記者会見で「多くの社員が長期間にわたって続けてきた」と組織的行為だったと認めた。

 他の5社は「契約切り替えなどに使用した」と説明しているが、さらなる実態解明が必要だ。

 国の電力改革の根幹を揺るがす事態である。電力小売りは2016年に全面自由化された。これに伴い、家庭や企業に電気を送るインフラの中立性を確保するため、大手電力会社の送配電部門が分社化された。新電力との公平な競争環境を整えるのが狙いだ。

 経産省の審議会では「分社化では生ぬるい」として、大手電力と資本関係を切り離す案も出ていた。だが、災害時の復旧作業への影響を懸念する声があり、見送られた経緯がある。

 結果的に、大手電力による送配電事業の地域独占が残った。代わりに電気事業法で小売り部門との情報共有が禁じられたが、このルールが破られていた。

 電取委は今後、各社に再発防止策の策定を求める方針だが、それだけでは不十分だ。大手電力との資本関係を分離する案も排除せず、送配電事業の中立性を担保する方策を改めて検討すべきだ。

 折しも、家庭向け電気料金の大幅な値上げの是非が経産省で審査されている。燃料費の高騰が理由だが、不祥事続きでは顧客の理解が得られると思えない。

 今回改めて浮き彫りになったのは、地域独占時代の特権意識から抜け切れない大手電力の旧態依然とした体質だ。顧客に重い負担を求めるなら、まずは自らが電力自由化に資する大胆な経営改革を進めるのが筋である。

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