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原子力規制行政の使命は安全の確保だ。それを担保する組織の独立性が疑われる事態が起きた。
原発の運転期間延長を巡り、原子力規制庁の職員が、推進側の経済産業省資源エネルギー庁の担当者と面談を繰り返していた。
昨年7月から9月にかけて7回に及び、電話でのやりとりも約30回に上った。問題なのは、原子力規制委員会に直ちに報告されず、約2カ月後になったことだ。
東京電力福島第1原発事故後、規制と推進を一つの官庁が担当していたことへの反省から新設されたのが規制委である。活動原則に「独立した意思決定」「透明で開かれた組織」を掲げる。
それを支えるのが事務局である規制庁の役割だ。規制委を差し置いて推進側と接触することは「なれ合い」と受け取られかねない。
運転期間の見直しは岸田文雄首相が昨夏、関係省庁に検討を指示した。「原則40年、1回に限り20年延長できる」と定める法律の改正が焦点となった。
規制庁は面談でエネ庁から法改正に関する情報提供を受け、規定撤廃を前提に内部で検討した。
法改正に当たって関係省庁が連絡を取り合う場面はあるだろう。だが今回は、規制と推進の分離に関わる問題でありながら、透明性を欠いていた。
規制庁側は検討に際して「エネ庁とのすり合わせはしていない」と強調するが、面談の記録はなく実証できない。
検討の過程で作った内部資料は公表したものの、法改正のメリットやデメリットなどに関する記載は「国民の間に混乱を生じさせる」と黒塗りにした。エネ庁から提供された資料は公開しなかった。
報告の遅れについて規制委は「不適切だった」と指摘し、推進側との面談は記録するよう内規を変えた。当然の対応である。
規制庁は発足から10年がたち、「推進側と一線を画す」という初心が忘れられかけている、と懸念する声がある。昨夏以降は、トップ3を経産省出身者が占める体制になっている。
岸田政権は原発の再稼働や運転延長、新増設などに前のめりな動きが目立つ。規制当局には、これまで以上に安全最優先の姿勢が求められる。