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落ち葉や朽ちた木の表面などでひっそりと生きているアメーバ状の生き物「粘菌」。その意外な驚くべき能力を、最先端の技術に応用する研究が進んでいる。人間はこの不思議な生命体から何を学ぶのか。
粘菌は菌という名がつくが、動物でも植物でも菌類でもない単細胞生物だ。ゆっくり動き回ってエサをとりながら成長、合体し、ときに分裂する。
中垣俊之・北海道大電子科学研究所教授(生物学)は、粘菌の研究で、ユニークな科学研究などに贈られる「イグ・ノーベル賞」を2008年と10年に受賞した。1人の研究者が2回受賞するのは異例だ。
中垣さんが明らかにしたのは、粘菌の「賢さ」だ。
08年の受賞は、迷路の入り口と出口にエサを置くと、粘菌がそれをつなぐ最短経路を見つけることを発見した研究で、英科学誌ネイチャーに掲載された。10年の受賞は、日本の地図上で主要都市にエサを置き、勾配や川を光の強さで表現することで、実際に近い鉄道網の再現に成功。米科学誌サイエンスに掲載された。
中垣さんは「粘菌には脳のような全体を見渡す中枢はない。それでも、より全長を短く、より短い距離で、体が切断された際の保険となる経路も残す。バランスの良いネットワークを作る」と語る。
粘菌のように単純に見える生物にも「知性」はあるか――。中垣さんが目指すのは、それを明らかにすることだ。「賢さは人だけのものではない。さまざまな生物の知性を明らかにすることができれば、人間のものの見方や考え方が変わっていくこともあるかもしれない」と話す。
難問を効率的に解く
粘菌の賢さは最先端技術に応用されつつある。その一つがコンピューターだ。
「巡回セールスマン問題」という難問がある。セールスマンが複数の都市を1度ずつ訪ねて出発点に戻るとき、…
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