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日本ではゲームといえばテレビやスマホがメインですが、近年、対面で行う非電源ゲームも注目を集めています。人気のボードゲーム・カードゲームを紹介します。
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ロシアによるウクライナ侵攻から1年が経過しました。クリミア併合から数えるともうすぐ9年。こんなに長期間の戦いになると予想した人は少なかったのではないでしょうか。ウクライナの悲惨な現状を見るにつけ、一日も早い終戦を望むばかりです。プーチン大統領のおかげでなにかと評判の良くないロシアですが、クレムリンとロシア国民、ロシアの大地は別物。ロシアをテーマにしたボードゲームも邪険にせずに遊びたいものです。
波乱の生涯を送った女帝
クリミア半島やウクライナ中部を帝政ロシア(ロマノフ朝)に併合した当時の皇帝がエカテリーナ2世(1729~96年)です。ドイツ貴族の娘として生まれ、ピョートル3世の皇后に。近衛軍やロシア正教会の後押しを受けてクーデターを敢行。夫を退位に追い込み自ら即位します。西欧の啓蒙(けいもう)主義に影響を受け、ロシアの近代化に着手。対外的にはオスマン帝国との露土戦争に勝利するなど南下政策を取り、ポーランド分割などで領土を拡大していきました。
優れた政治手腕で「大帝」と称される一方、孫のニコライ1世から「玉座の上の娼婦(しょうふ)」とまで呼ばれた情熱的な私生活を送ります。公認だけで10人以上、一説には300人とも言われる愛人がいたそうですが、真に愛したのは政治・軍事両面で彼女を支えたポチョムキンだけだったとか。
目指せポチョムキン
そんな偉大な女帝の寵愛(ちょうあい)を得るため、「エカテリーナ2世:皇后の都」では、領土の拡大▽軍備の増強▽貿易の振興などに注力します。とはいっても複雑なリソースマネジメントなどは不要で、カードに描かれたアイコンによる処理がほとんど。処理自体も同時なのでサクサクとゲームは進みます。
メインボードにはモスクワを中心とした諸都市が描かれ、カードの効果で建物を建ててネットワークを構築していきます。他プレーヤーの建物がある場所でも建てられるので、陣取りのキリキリした緊張感はありません。左側には大きな寵愛トラックがあり、上げていくと手札上限が増えたり、中間決算で勝利点が得られたり。さらには最終得点計算で連続する建物数に掛ける乗数が決まります。つまりはできるだけ連続した建物を建てつつ寵愛トラックも上げていきたい。このほかさまざまな商品を集めると勝利点になる勅命カードも指針になります。
スタート時に自分の場に3枚表向きでカードを出し、ラウンドごとに手札から2枚のカードを場に追加していきます。1枚は上の列に、もう1枚は上列カードのどれかの下に。一斉にオープンして上下のカードの色が同じなら上列のカード効果が発動。これを4ラウンドやったら中間決算。3回目の中間決算が終わったら最終得点計算。他人とのからみは中間決算時にカード列の大砲と本のアイコン数を比べるくらいでソロプレー感が強いです。それを物足りないと思うか邪魔されずに伸び伸びできると思うかで評価が分かれそうですね。
雷帝の威厳を地上に「赤の大聖堂」
時代は少しさかのぼって16世紀半ば。残虐な統治で「雷帝」と呼ばれたイワン4世(1530~84年)は、カザン・ハン国の君主を捕虜にしたことを記念し、モスクワに聖ワシリー大聖堂の建設を命じます。色とりどりのタマネギ形のドームが特徴で、赤の広場に面する大聖堂はロシア文化を象徴する建物。1990年には世界遺産に登録されました。
プレーヤーは雷帝お抱えの建築家となり、大聖堂の塔を建築し名声を競います。手番になったら①建築場所の確保②材料を運んで大聖堂の建築③材料の獲得――の三つから選択。メカニクスの骨格はとてもシンプルです。複数ある塔の下側から足場を組んで、大聖堂カード(設計図)で指定されている材料(木材やレンガ、石材など)を運びこんだら完成。名声点とお金を獲得してカードを裏返して塔の絵がある面にします。誰かが6枚の大聖堂カードを完成させたら終了。大聖堂カードの名声点のほか、塔ごとにマジョリティー争いをして追加の名声点を得ます。
材料集めは効率的に
この作品の一番の特徴は材料の獲得方法。大聖堂の建築場所とは別に市場ボードとよばれる大きな円盤が描かれたメインボードがあります。8分割された円盤の周囲には5色のサイコロが置かれ、手番で材料の獲得を選択した場合、サイコロを1個選択して出目の数字分時計回りに区画を回り、到着した場所のサイコロの数分のアクションが行えます。サイコロの色によっては個人ボードの特殊能力が使える場合もあります。他のプレーヤーがどのアクションをしたいかを予測して効率良く立ち回りたいもの。雷帝の機嫌を損ねないよう迅速な建設が求められるのです。
暴君として恐れられたイワン雷帝ですが、対外戦争の失敗や恐怖政治で人心は離反し土地は荒廃。錯乱の末、後継者だった次男を撲殺するなど哀れな晩年をたどります。現在のロシアの独裁者にはどのような末路が待っているのでしょうか。【野地哲郎】=次回は3月11日掲載
「エカテリーナ2世:皇后の都」データ
2~4人用◆所要時間60分◆14歳以上対象◆ヨハネス・シュミダウワーケーニッヒ作◆2022年初版
「赤の大聖堂」データ
1~4人用◆所要時間80分◆10歳以上対象◆シェイラ・サントス、イスラエル・センドレロ作◆2020年初版