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「日の丸ジェット」断念 国策の失敗教訓にしたい

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 官民一体で事業化を目指した「日の丸ジェット」は、なぜ失敗したのか。徹底的に検証し、今後の教訓としなければならない。

 三菱重工業が、国産初のジェット旅客機「スペースジェット(旧MRJ)」の開発を断念した。主要市場である北米での需要が見込めず、継続には巨額の資金が必要なため、泉沢清次社長は「事業性を見いだせない」と説明した。

 自動車より裾野の広い航空機を成長産業に育てる役割を担うはずだった。国産旅客機は「YS11」以来、約半世紀ぶりで、政府も約500億円を投じ、国策プロジェクトと位置づけられていた。

 だが、2008年の事業化決定以降、迷走が続いた。設計変更などで6回も納期を延長し、開発費は1兆円近くに膨らんだ。

 事業の進捗(しんちょく)に応じて対策を「適正に判断してきた」というが、歴代経営陣の責任は重い。

 問題なのは、弱点を認識して早期に対処するという基本動作を怠ったことだ。自社の能力への過信があったのではないか。

 三菱重工には主翼など航空機の部品を製造した実績がある。だが、完成機メーカーとしての経験は乏しい。特に、量産に必要な「型式証明」を各国の航空当局から取得するノウハウを欠いていた。

 開発の難航を受けて、海外メーカーで型式証明の取得に携わった外国人を責任者に据えたが、あまりにも遅い対応だった。

 愛知県内に設立した開発子会社の社長は何度も交代した。現場と経営陣の意思疎通が不十分だったのは明らかだ。

 日本メーカーが航空業界で成功した事例もある。小型ビジネスジェット機「ホンダジェット」だ。ホンダは開発子会社を米国に設立し、事業化の決定から納入までリーダーを代えなかった。販売機数で世界トップに成長した。

 国産旅客機の開発が失敗に終わり、西村康稔経済産業相は「極めて残念であり、重く受け止める」と語った。経産省も猛省する必要がある。

 政府は現在、デジタル社会の基盤となる半導体産業の復活を目指している。技術や資金を寄せ集めるだけでは成功はおぼつかない。課題を見極め、柔軟に対応できる体制作りが急務だ。

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