「放流しても魚は増えない」驚きの日米研究チーム論文、その真意
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放流しても魚は増えない――。北海道大学が刺激的な論文発表のプレスリリースを配信しました。北海道は、人工でふ化させたサケ・マスを河川に返す稚魚の放流が盛んで、市民も参加していますが、「無意味」なのでしょうか。プレスリリースだけをみれば、誤解を招きかねない気がします。論文の共同研究者の一人に真意を聞きました。【谷口拓未】
発表された論文は、ノースカロライナ大学グリーンズボロ校の照井慧助教や北大大学院の先崎理之助教ら4人による共同研究だ。
2月7日にオンライン公開された。共同研究者の一人、北海道立総合研究機構さけます・内水面水産試験場で研究主幹を務める卜部浩一さん(51)に論文の詳しい内容を取材した。
種の保全や漁獲量増加を目指すふ化放流は国内外で広く普及する。国内はベニザケやサクラマスなどを指す「サケ・マス」の稚魚が毎年、20億匹ほど放流される。一方、人為的な介入は、多様な生物が共存する自然界のバランスを崩すとの懸念も指摘されてきた。
道総研は動植物を保護する「保護水面」に指定されている北海道の32の河川で、サクラマスなどが生息する密度や魚種を調べてきた。32の河川について、1999年から2019年にかけて個体数を調査すると、年間で最大24万匹のサクラマスが放流された。だが、複数の河川で個体数の増加がみられなかった。
例えば99~15年に約10万~15万匹のサクラマスが放流された河川で、1平方メートル当たりの生息密度を調べたところ、07年の約1・5匹をピークに徐々に減り、13年に0・5匹を下回った。別の河川は、03~09年に十数万~約20万匹を放流したのに、密度は09年の約0・5匹から10年に約0・1匹と下がり、15年にほぼ0匹。卜部さんは「驚いたし、理解しがたい結果でした」と言う。
放流がなぜ個体数増加につながらないのか。この疑問に向き合ったのが今回の研究だ。異なる32の環境で毎年、放流があった場合、サクラマスをはじめ10種の魚群…
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