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ウクライナ侵攻

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から1年。長期化する戦闘、大きく変化した国際社会の行方は……。

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かつて嫌った「友情のパイプ」 中国依存、進めるしかないロシア

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「黒河中継所」にある天然ガスのパイプライン。ロシアのガスパイプラインと直結し、中国全土へガスを送っている=中国東北部黒竜江省黒河で2023年2月、米村耕一撮影
「黒河中継所」にある天然ガスのパイプライン。ロシアのガスパイプラインと直結し、中国全土へガスを送っている=中国東北部黒竜江省黒河で2023年2月、米村耕一撮影

 ロシアによるウクライナ侵攻は、中露関係にも大きな影響を与えた。中国は建前の上ではロシアとウクライナの間で「中立」を装うが、実際には原油や天然ガスなどロシアの資源を大量に輸入し、米国などによる先端兵器の対ウクライナ供与を激しく非難するなど、政治、経済の両面でロシアを下支えする。中露国境の街を訪ねると、この1年で急速に進んだ両国の協力の深まりが可視化されていた。

 中国東北部・黒竜江省黒河市。黒竜江(ロシア名・アムール川)を挟んでロシア極東と接する国境の街だ。雪景色の中を市中心部から南西に約10キロ走ると、緑色の鉄条網に囲まれた施設が姿を現した。「中露天然ガスパイプライン東ルート」の黒河中継所だ。現地を訪れた2月20日、複雑に曲がったパイプが早朝の日差しを受け、銀色の鈍い光を放っていた。このパイプを通じて、天然ガスがロシアから中国へと流れている。鉄条網の隙間(すきま)から、こんな標語が見えた。「中露のパイプは友情のパイプ」

 鉄条網の内外には監視カメラが数多く設置されており、この施設の重要度が伝わってくる。近づいて施設をじっくり見たいと思ったが、拘束などの恐れがあると判断し、車から降りずに遠くからゆっくり通り過ぎるだけにした。

 その後、市内に移動した。どこかピリピリした緊張感が漂う。黒河中継所を離れて約1時間後。「外国人がいるとの通報を受けた」。警官2人組に、行き先や撮影機材の有無などを問いただされた。警官の1人は「国境地帯は特殊だ。外国人を調べるのが我々の仕事だ」と強調した。

 黒河中継所が中国のエネルギー政策上、極めて重要なのは、ロシアのパイプライン「シベリアの力」と地下を通じて直結しているためだ。ここを起点にロシア産天然ガスが3000キロを超えるパイプラインを通じて中国全土へと送られている。

 ロシアによるウクライナ侵攻を受け、欧州はロシアからのエネルギー輸入を急激に減らしており、ロシアは輸出先を中国などに必死で振り向けている。黒河中継所を通じた東ルートの天然ガスの輸送量は2022年、開通当初の19年の3倍以上に急増。23年は19年の5倍を超える見通しだ。

 中露間のパイプラインはこのほかにモンゴル経由のルートが近く着工を予定している。さらに2月には、日本海沿いを走る極東ルートから中国東北部にパイプを延伸する計画についても合意した。欧州への輸出の道を閉ざされたロシアは、今後より一層、中国市場への依存を高める可能性が高い。

 黒河がロシア側とつながるのはパイプラインだけではない。22年6月には黒竜江の対岸の都市、ブラゴベシチェンスクと結ぶ長さ19・9キロの自動車専用の道路も開通した。運送業に関わる黒河市民の男性(49)はこう期待を込める。「コロナの3年間、観光も貿易も停滞し苦労したが、これからは地域経済も上向きになるだろう」

対米・経済的実利 中国が得るうまみ

 中国は歴史的にはソ連時代も含めてロシアと対立した時期もある。日米欧などとロシアが激しく対立するなかで、中国はなぜ、米欧との関係が悪化するリスクを負ってまで、対露の経済関係を強化し、ロシアを支えるのか。

 一つは…

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【ウクライナ侵攻】

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