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諫早湾「非開門」で決着 分断修復は政府の責任だ

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 地域に根ざした人々のなりわいを翻弄(ほんろう)してきたのは国である。責任を重く受け止めるべきだ。

 国が長崎県で実施した干拓事業を巡り、諫早湾を閉め切った潮受け堤防の排水門を開けるかどうか。約20年にわたる法廷闘争が「非開門」で事実上、決着した。

 漁業者は、閉め切りが有明海での不漁を招いたとして、開門を求めていた。干拓地の営農者は、開門すれば塩害が起きるなどと反対した。

 それぞれが起こした裁判で、開門を命じる判決と禁じる判決がいずれも確定し、司法判断が割れていた。今回、開門を命じた判決の効力をなくす判断が最高裁で確定し、統一された。

 混迷が深まったのは、国の対応が原因だ。

 政府は民主党政権当時の2010年、開門を命じる福岡高裁判決を受け入れた。だが、営農者が納得する対策を打ち出せなかった。

 その後の裁判では、開門の必要性を主張しなかった。そのため、自民党政権に戻ってから、正反対の判断が出された。

 自ら確定させた開門命令判決に従わないまま、無力化させる異例の手段に出た。三権分立を揺るがしかねないやり方だ。

 干拓事業は1950年代、コメ増産を目的に構想された。その必要性が薄れると、高潮などの防災を前面に出して着工した。「止まらない公共事業」の典型である。

 堤防の閉め切りから四半世紀がたつ。「宝の海」と呼ばれた有明海では赤潮が頻繁に発生するようになった。高級貝のタイラギが取れなくなり、ノリの色落ちも続くなど、漁業者への影響は深刻だ。

 一方で、干拓地には野菜栽培のために大規模な区画の農地が整備され、営農者が定着している。

 どちらにも非はないのに、対立する状況に置かれた。有明海沿岸の自治体にも分断が生じている。

 政府は、漁業振興のための基金を創設し、問題を解決したい考えだが、漁業者の反発は強い。

 野村哲郎農相は「歩み寄る気持ちがあれば、国としても話し合いに関与したい」と述べるものの、積極的な姿勢が見えない。

 国策で生じた分断の修復は、政府の責務だ。解決に向けた取り組みを主導しなければならない。

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