終戦直後と同じ保育士配置基準 異次元の少子化対策で改善なるか

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写真はイメージです=ゲッティ
写真はイメージです=ゲッティ

 岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」の3本柱の一つが、保育をはじめとする子育て家庭向けサービスの充実だ。これまでは待機児童解消のため、保育施設の「量の拡大」が喫緊の課題だったが、保育の「質の向上」を図るため保育士の配置基準を引き上げようという機運が、保育団体の間で高まっている。終戦直後に定められた基準の改善はかなうのか。

丁寧に見る余裕なく

 「『待って待って』『だめだめ』と常に子どもに言っていた。表情や言葉を丁寧に見たり聞いたりする余裕はなかった」。神奈川県内で働く保育士の女性(57)は、数年前まで勤務していた保育所での激務を振り返る。

 定員100人規模の保育所に勤務し、2歳児15人を3人で担当していた。国の配置基準では1~2歳の園児6人に対して保育士1人。基準は満たしていたが、ぎりぎりだった。子どもをトイレに連れて行く余裕もなく、おむつを卒業するトイレトレーニング中の子どもに、やむを得ずおむつをはかせることもあった。若い保育士の指導や保育所全体を見渡すことなどが役割の副主任を務めていたが、人手不足でクラス担当も兼ねていたため、副主任としての仕事はほとんどできなかったという。

 現在は定員19人(0~2歳児)の小規模保育所で園長を務める。保育士は計10人と手厚く、2歳児7人を2人で見ている。「落ち着いて保育ができるので、怒る必要がない。整った環境でちゃんと指導する人がいれば、不適切な保育はそうそう起きない」と実感を込める。

 厚生労働省が2020年度に行った調査研究では、園児に乱暴な対応をしたり、脅迫的な言葉をかけたりする「不適切な保育」が19年度に全国で345件確認された。背景として、人権や人格尊重の観点から子どもとの適切な関わり方を理解していないなどの「保育士一人一人の認識の問題」とともに、職員体制が十分でないなど「職場環境の問題」があると指摘している。

 国が定める保育士の配置基準では、保育士1人あたりが見る子どもの数は、0歳児3人▽1~2歳児6人▽3歳児20人▽4~5歳児30人――となっている。

 この配置基準では不十分だとして、見直しを求める声は多い。千葉県内の私立保育所の園長は、これまでの経験から、保育士1人あたり0歳児2人▽1~2歳児4人▽3歳児15人▽4~5歳児20人――程度が限界だと訴える。

 静岡県裾野市の認可保育園「さくら保育園」では昨年12月、保育士3人が園児への暴行容疑で逮捕(その後、処分保留で釈放)された。3人は1歳児を担当していた。市によると当時、同園の1歳児は23人。国基準では4人の保育士が必要で、この3人を含む6人が国の基準を下回らない人数で勤務を回していたという。逮捕された保育士の弁護人は「新型コロナウイルスの影響で業務量が増えたストレスで手が出てしまった」などと説明していたという。

 元帝京大教授(保育学)で保育研究所の村山祐一所長は、職場環境の余裕のなさが保育施設での事故件数の増加にも表れてい…

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