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ジェンダー(社会的に作られた性差)にとらわれない、平等な社会とは?格差解消のための課題を考えます。

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男性になりたかった自分が乳がんに 「どん底」の身を救ったのは

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本多一麻さん=東京都内で、大野世姿さん撮影
本多一麻さん=東京都内で、大野世姿さん撮影

 医師から告知された瞬間、パニックに陥った。「死ぬの?」「手術代は?」。そして、次にわいてきたのは「男になりたかった自分が乳がんなんて恥ずかしい」という気持ちだった。

男にもなれる 落語との出会い

 「普通の人と受け止め方が違うんですよ、LGBTは」。名古屋市在住の美容師でアマ落語家、本多一麻(かずま)さん(51)はそう言って笑った。

 恋愛対象は女性。市内の中高一貫女子校を卒業後、東京の短大に進学した。男装バーなどで働きながら俳優を目指して小劇団で活動。「男の役者として認められたい」と25歳からホルモン注射を打ち始めた。乳房の脂肪吸引もした。

 「女の役はやりたくない」というこだわりから解放されたのは、落語と出会ってから。2017年、小劇団の役者が落語を披露する「ナゴヤはいゆう寄席」に参加すると、自分の芸一つで男にも女にもなれる魅力にとりつかれた。

 プロへの弟子入りはかなわなかったが、古典落語を勉強し、積極的に指導を求めた。美容師として生計を立てながら、地域の寄席やイベントに出演を重ねた。

なぜがんに 責める自分を救ったSNS

 そんな中で21年6月、乳がんを宣告された。

 自分でしこりに気づいたため発見は早く、すぐに全摘出を選んだ。「何が悪かったのか」と原因を探し、自分を追い詰める日々。入院中は新型コロナウイルスの感染拡大で付き添いや見舞いが禁止され、売店すら行けない。「女性の病気」になってしまったかっこ悪さも追い打ちをかけた。

 どん底を救ってくれたのは、音声によるSNS(ネット交流サービス)「クラブハウス」だった。トークルームに参加するがん経験者やその家族、医療関係者たちは本多さんの気持ちに寄り添い、不安を和らげてくれた。院内でWi―Fi(ワイファイ)の使える場所を探し回った。次第に「自分も支える側に回りたい」と思うようになった。

やっぱり落語が好き

 落語の噺(はなし)には老若男女、多くの登場人物が出てくる。殿様、ご隠居、長屋のおかみさんから小僧まで。自分の中に眠っているいろいろなキャラクターが解放され、生き生きと動き出すのが好きだという。

 指導してくれた人からは「お前はただ男役をやりたいだけ、自分のためにやっている」と怒られたことがある。そ…

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