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岸田政権が「異次元の少子化対策」を打ち出す中、地方自治体は新年度を前に発表した予算案で相次いで、少子化対策として「結婚支援」を掲げた。「官製婚活」の問題に詳しい富山大非常勤講師の斉藤正美さん(社会学)は、「幸せのお手伝い」という行政の無邪気さが、誰かを傷付けていることにあまりに無自覚だと嘆く。背景に何があるのか。
――国や自治体が結婚を支援する「官製婚活」はどのようにして広まったのでしょうか。
◆2013年に第2次安倍政権が結婚と出産を促進する取り組みを提案し、交付金をつけたことで「官製婚活」が広がる契機になりました。いま岸田政権が異次元の少子化対策と言っているが、実際には経済対策だと見ています。行政はお金を出すけれども、実際に事業を行うのは委託された結婚情報産業です。新型コロナウイルス禍などで厳しくなった業界に対する支援に、私たちの税金が回っているということだと思います。
――自治体に取材すると「幸せをお手伝いすることに何の問題があるのか」という反応です。でも、結婚したカップルに子供ができるかどうかはわからない。子供が経済的、精神的に支えのある環境で育てるかどうかの保証もない。婚活支援が少子化対策だと言うことに違和感があります。
◆4月に発足する「こども家庭庁」の新年度予算案では、結婚支援として約2億円をかけて、結婚をテーマにしたテレビ番組の製作や電車内の動画広告など、幅広い媒体で結婚の機運醸成がうたわれています。それによって「結婚いいね」「子供を持つのが素晴らしい」という考えを、社会のあらゆるところで目にしたら、子供を持つ可能性がない人や、持ちたいと思っても持てない人、LGBTなど性的少数者で異性との結婚という法制度に入りたくても入れない人にとっては生き地獄ではないでしょうか。
「この世の中みんなこう思っているんだな」ということを常に突きつけられます。それはすごくつらい。自分は異端だと思い込んでしまう。子供を持ちたくない、子供を持てない人は、社会から置いてけぼりにされたという気持ちになるでしょう。自分を責める人もいるでしょう。そういう政策をとるべきではないと思います。
LGBTなどを排除する政策をとるべきではないことと同じ理由です。荒井勝喜元首相秘書官の差別発言で、多くの人が傷付き、つらい思いをしました。行政が「結婚いいね」という素朴な気持ちで結婚支援をうたうのは、それに近いことではないでしょうか。結婚というプライベートなことに行政が介入するのは控えるべきです。
――とはいえ、結婚支援に取り組む自治体は「あくまで結婚したい人の希望をかなえるだけ」「希望しない人には決して強制しない」と慎重な姿勢も見せます。
◆社会の雰囲気や規範は、その人を縛る。社会の価値観が一律になってしまうこと、「結婚した方がいい」という空気を作ることが、どれだけ罪なことか。政府が「希望出生率1・8」を掲げ、自治体が政策として結婚支援をすることは、最初から子供を産めない人や結婚しない人たちをはじくことになります。「子供を持たなくてはいけない」ということを無意識にすり込まれることにもつながります。
結婚はしても、しなくてもいいものです。…
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