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ロシアのウクライナ侵攻や円安、コロナ禍での輸送費上昇などによる配合飼料の価格高騰に、畜産農家が苦しんでいる。飼料価格はコロナ禍前の約2倍と過去最高水準になり、生乳の生産量を増やすため多くの餌を必要とする酪農家は利益をほとんど出せなくなっている。肉牛を育てる肥育農家は物価高で消費者から牛肉が敬遠されて出荷価格が低迷。経営がさらに圧迫されている。
愛知県三河地方の40代の男性酪農家は祖父が70年近く前に牛1頭から始めた牧場を経営する。今では搾乳牛約120頭、出産準備中の牛約20頭、子牛約30頭を育て、毎日約4トンの生乳を出荷している。「牛はいい水を飲んでなんぼ」と井戸水を与えた牛から搾る乳が自慢だ。
コロナ禍前の2018年8月から1年間の餌代は約6500万円で、年間約700万円の利益が出ていた。ところが21年8月から1年間の餌代は約9800万円に増加。年間約900万円の赤字となり、「会社の蓄えで赤字を埋めているが、底を突きかけている。このままでは、個人の貯蓄も充てなくてはいけなくなる」と心配する。
財務省の貿易統計などによると、配合飼料の輸入原料価格(1トン当たり)は20年10~12月期、約2万5000円だった。21年以降は上昇が続き、21年7~9月期は約4万1000円、22年10~12月期には約6万3000円にまで上がった。価格は今も高止まりしている。干し草の価格も約1・5倍に跳ね上がった。
配合飼料の価格上昇による農家への影響を緩和するため、上昇分を補塡(ほてん)する「配合飼料価格安定制度」がある。ただ、直前1年間との差額が対象となるため、価格が高止まりした場合、補塡が実行されなくなってしまう。
農林水産省の2022年の畜産物生産費統計などによると、牧草が豊富にある北海道以外では、酪農の経営コストの半分を飼料費が占める。男性の牧場の場合、18年8月から1年間の経費のうち53%が餌代だったが、21年8月から1年間は61%に膨らんだ。
酪農家は牛に乳を出させるため、妊娠・出産を繰り返させており、子牛の販売も重要な収入源だ。和牛の精子を使って人工授精した交雑種の子牛や、受精卵を使った和牛の子牛を肥育農家に販売している。ところが、肥育農家も飼料高騰に苦しんでいるため、子牛の価格が下がった。
県経済農協連合会の「あいち家畜市場」(豊橋市)では、20年1~3月に約23万4000円だった交雑種の雄の子牛価格が、直近では約14万4000円にまで落ち込んでいる。
男性は年間約100頭の子牛を出荷しており、コロナ禍前は売上高の1割を子牛販売が占めていた。「餌代高騰、資材・電気代高騰、子牛価格低迷。ダブルパンチどころかトリプルパンチだ」
男性の長男は今、酪農を学ぶ学校に通っている。「経営状態をよくするために、やれることはやらないと」と経費削減に取り組むが、経営が好転する兆しは見えない。
牛肉の価格低迷が追い打ちに
飼料などの高騰は、肥育農家も直撃した。
新城市鳳来地区の寒狭川(かんさがわ)沿いにある「源氏肥育組合」は、口溶けのいい脂としっかりした味の赤身が自慢のブランド牛「鳳来牛」(A4等級以上)を育てる4軒の一角を担う。
和牛約340頭を、代表理事の久保田泰司さん(38)や兄の剛司さん(40)ら家族が育てている。飼料高騰の影響を和らげようと、自家配合している飼料の原料の一部を変更するなど努力を続けるが、約400万円だった1カ月の飼料代は、600万円に膨らんだ。「何もしなければ2倍になっていた。このままでは餌代でパンクしてしまう。2023年度がどうなるか、本当に怖い」。これまでは利益を規模拡大に回してきたが、今はほとんど利益を出せない状態という。
さらに、牛肉の価格低迷が肥育農家を苦しめる。鳥インフルエンザや豚熱で供給量が減った鶏肉や豚肉の価格は高水準が続く一方で、物価高騰の中、他の肉と比べて価格の高い牛肉は敬遠されているとみられる。
久保田さんは「東日本大震災の後や牛海綿状脳症(BSE)の影響で価格が下がったことはあったが、どちらも原因が分かっていたので、いずれ回復すると確信できた。でも、飼料高騰はいつ終わるのか先が見えない。コロナ禍で経営体力を削られていたところに追い打ちをかけられ、かなり厳しい」と深刻に受け止めている。【荒川基従】
配合飼料価格安定制度
配合飼料価格の上昇が畜産経営に及ぼす影響を緩和する制度。輸入原料価格が直前1年間の平均を上回ると、生産者と飼料メーカーが拠出している「通常補塡(ほてん)基金」で差額を補塡。上昇率が15%を超えた場合は、国と飼料メーカーが拠出する「異常補塡基金」からの補塡が発動される。だが異常補塡基金は現在、ほぼ底を突いており、足りない補塡分を国が緊急拠出してしのいでいる。
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