「愛着を断ち切れ」教団からの脱走 幼子と引き裂かれた母の悔い
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親の信仰の影響を受けて育つ「宗教2世」。安倍晋三元首相の銃撃事件をきっかけに、多くの当事者がその体験を語り始めています。信仰とは、家族とは、生きるとは。寄せられた「声」をシリーズで届けます。
声を聞いて・宗教2世(12)恵美子の場合
夜中に教団施設を抜け出した。懐中電灯を携え、幼子を背負って走った。「久しぶりに会えたのに、ここで離れたら二度と会えないかもしれない。一緒に逃げなくちゃ」
だが周囲は山深く、道に迷った。捜しに来た教団の車に見つかり、連れ戻された。親子の愛着を絶て――。「尊師」の教えの下で、2人は再び引き裂かれた。
関東に住む恵美子(仮名)はオウム真理教の元信者だ。妊娠中だった約30年前に入信した。当時の夫が自宅に招いた教団関係者から「おなかの子が望んでいる」と勧誘されたのがきっかけだった。
長男の翔(仮名)が生まれて間もない1993年1月、富士山のふもとで修行に参加した。山梨県旧上九一色(かみくいしき)村(現・富士河口湖町)で建設中だった教団施設「サティアン」。壁は完成しておらず、寒風が吹きすさぶ中で瞑想(めいそう)した。
当時、看護師の仕事をやめて子育てに専念していた恵美子にとって、教団は心のよりどころだった。夫は仕事で忙しく、話し相手がいない。毎日1時間以上かけて東京都内の道場に足を運んだ。そこには耳を傾けてくれる人がいて、道場に来ていた子どもたちも屈託がなかった。
親子別々での修行
94年5月、一家で出家すると状況は一変した。最初に住んだ富士山総本部(静岡県)では、子どもを連れて修行の場所に行くことを許されなかった。
母と離れ、泣き叫ぶ翔。「子どもへの愛着を断ち切らないといけない。カルマ(業)が移り、聖なる子どものステージが下がる」。そう教えられ、我が子への思いを振り切った。
不安が体に表れたのか、修行から戻ると翔は下痢をしておむつが汚れていることが多かった。
しばらくすると、子どもたちだけで熊本県旧波野村(現・阿蘇市)に集められ、親子別々で生活することになった。翔や子どもたちが気がかりだった。看護師資格のある恵美子は教団内で「治療省」に所属していたため、旧波野村での健康診断を申し出た。
現地を訪れると、環境は劣悪だった。乳幼児から中高生ぐらいまでの子どもが100人ほどいたが、世話係の大人は10人ほどしかいない。畳の隙間(すきま)に、ほこりや虫の死骸が詰まっていた…
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