「期待含みの昇進」が招いた看板力士不在 昭和以降初の異常事態

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正代(左)を押し出しで降す貴景勝。師匠の常盤山親方(元小結・隆三杉)によると、この一番で痛めたという=エディオンアリーナ大阪で2023年3月14日、久保玲撮影
正代(左)を押し出しで降す貴景勝。師匠の常盤山親方(元小結・隆三杉)によると、この一番で痛めたという=エディオンアリーナ大阪で2023年3月14日、久保玲撮影

 大阪で4年ぶりの通常開催となった大相撲春場所だが、大関・貴景勝の休場により昭和以降初めて、看板力士の横綱、大関が不在となる異常事態となった。「人材不足」の背景には、期待含みの昇進や、稽古(けいこ)不足などがある。

 新型コロナウイルスが拡大する前の2020年の初場所は白鵬と鶴竜の2横綱、貴景勝と豪栄道の2大関だった。その後、貴景勝を除く3人が30代半ばで引退し、4人が大関に昇進したが、横綱に上り詰めた照ノ富士を除き、朝乃山、正代、御嶽海の3人は陥落した。

 「番付は生き物」と呼ばれ、「三役で直近3場所33勝」と言われる大関昇進の目安は柔軟に適用されてきた。後に横綱となる北の富士(当時は北の冨士)は1966年名古屋場所後に大関に昇進したが、直近3場所では28勝だった。当時は4横綱がいた一方で大関は豊山のみ。次世代を担ってほしいとの期待に応えたといえる。

 令和の角界も世代交代を見据えるように、朝乃山も正代も目安に1勝足りない32勝で昇進したが、大関で優勝のないまま番付を落とした。朝乃山は自身の不祥事が理由だが、関脇で3度優勝した御嶽海の在位はわずか4場所だった。

 22年名古屋場所から3場所、平幕優勝が続き、若隆景や豊昇龍、霧馬山らは「大関候補」とされるが、昇進の目安に近づくほどの活躍には至らない。新型コロナの影響で出稽古や巡業の機会が減り、突き抜けられていないとの見方をする親方もいる。

 日本相撲協会の芝田山広報部長(元横綱・大乃国)は「照ノ富士も貴景勝もけがとはいえ、ともに番付上1人ずつ。とても厳しい状況にある」と語る。八角理事長(元横綱・北勝海)も「親方衆が頑張って、いい弟子を育てていかないとだめ。今の力士の師匠をするのは大変だけど、でも、やらなきゃだめですからね」。大相撲の長い歴史の中でも、難しい状況を迎えている。【村社拓信】

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