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埼玉県熊谷市に「子育て支援基金」が置かれたのは…

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 埼玉県熊谷市に「子育て支援基金」が置かれたのは、2020年末のことだった。地元の産婦人科医だった故・武石けい子さん(享年81)の遺志で2億5200万円などが市に寄付された。子どもたちのために役立てようと基金が設けられ、「誕生祝金」に活用されている▲遺言に従い、遺産の全部または一部を団体や機関などに寄付する遺贈寄付が、次第に広がっている。単身で財産を継ぐ人がいない場合や、家族がいても事前に決めておくケースもある。国税庁によると、20年の総額は約400億円に達し、10年の約63億円に比べ大幅に増えている▲寄付の対象はNPOや公益法人などが多い。11年の東日本大震災に伴う、さまざまな支援の広がりが転機になったといわれる。「日本盲導犬協会」には震災を境に問い合わせが相次ぎ、11年度に9件だった遺贈寄付は21年度は29件にのぼった。寄付者が生前「できれば使ってほしい」と語っていた遺品も、可能であれば保管や活用をこころがけているという▲寄付は遺言など法的な手続きを要し、じっくり考えて判断することが欠かせない。相談や、寄付先の仲介にあたる団体の活動も広がっている▲相続をする人がいない場合、遺産は国庫に入る。単身世帯化などに伴い、こうしたケースが増えていくことが指摘されている▲新型コロナウイルス禍を経て、助け合いの必要性がいっそう強まった昨今だ。金額の多寡を問わず、社会に最後の贈り物をする。共助時代のひとつの選択であろう。

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