がん患者相手にネットワークビジネスか “陰謀論”織り交ぜ

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「ジャパンエキスポ・タイランド」の会場で、松山政司1億総活躍担当相(当時)にプレゼンをする白木茂容疑者(左)=ウィンメディックス社のホームページから(画像の一部を加工しています)
「ジャパンエキスポ・タイランド」の会場で、松山政司1億総活躍担当相(当時)にプレゼンをする白木茂容疑者(左)=ウィンメディックス社のホームページから(画像の一部を加工しています)

 がん治療の新薬開発をうたい、無登録で自社の未公開株を販売したとして、医療ベンチャーの社長が逮捕された。会社側は株主に、医療業界の“闇”をちらつかせつつ「社長の逮捕は(薬の開発を阻む)『黒い方』と闘って言い過ぎたから」などと説明。一方で、購入者から相談を受けた弁護士らは「がん患者や高齢者の不安につけ込み、ネットワークビジネス(マルチ商法)を展開していた」と指摘している。実態はどうだったのか。

 警視庁は3月8日、「ウィンメディックス」(東京都千代田区)社長の白木茂被告(45)ら2人を、金融商品取引法違反の疑いで逮捕した。ウィン社は2017年以降、全国の約1万5000人から計約80億円を集めたとみられる。2人は容疑を否認したが、東京地検に起訴された。

派手な演出 全国で講演会重ね

 ウィン社が未公開株の販売を広げる主な手立ては、全国を回る講演会だった。東京、大阪、名古屋、福岡などの大都市で毎月のように開かれている。記者も知人からうわさを聞き、半年あまり足を運んだ。会場の様子を紹介したい。

 22年8月、繁華街にある会議室は200人近い参加者で埋まっていた。大半は中高年で女性が目立つ。つえをついた高齢者や、抗がん剤治療中とみられる帽子をかぶった人もいた。

 おもむろに会場を見回し「この中にがんで闘病中の人はいますか」と問いかける白木被告。手を挙げた人に対し、「どこのがんですか」「発症はいつ」「どんな痛みがありますか」などと、まるで医師の問診のように矢継ぎ早に質問を重ねていく。

 救いを求めるように病状を説明する患者に「わかりました。切っては(手術しては)だめ。この本に書いてある通りにすれば、がんは治ります」。そう言って、受付に山積みされた著書「末期がん患者を救った男」を指さした。

 続いて、自らの生い立ちや医療に対する持論、事業計画などをよどみなくスピーチ。娘をがんで亡くした話をするときは悲しげなBGMを流し、新規事業の説明では映像を駆使した派手な演出で盛り上げる。

 主な内容は半年間、ほとんど変わらなかった。

 がんの標準治療である抗がん剤治療を否定し、自社が開発した「コロイド化ヨウ素」を服用すれば治ると主張。「実験でマウスのがんは100%殺した。人間は7割だったが、残りの3割は意識に不安があるから。ヨウ素と睡眠や食事など五つの注意を守れば、100%がんは治る」と繰り返した。

 参加者たちは身を乗り出し、何度もうなずいた。

講演会で「がん患者を連れてきて」

 参加したのは株主と、株主に紹介されたがん患者やその家族ら…

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