独り歩きした犯人像 捜査混乱させた「身長180センチ」
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「黒または濃紺色のコートに帽子、マスクを着用」「黒っぽい自転車で逃走」――。警察庁長官狙撃事件の特命捜査班の捜査記録には、目撃情報をまとめた文書が含まれ、1995年3月30日午前8時半に自宅マンションを出た国松孝次長官(当時)を銃撃した犯人像が記されている。事件前後に現場付近で不審な人物を目撃したという15人の証言を警視庁捜査本部が分析したもので、犯人像を「年齢30~40歳、身長170~180センチ、やや痩せ形の男」としている。
この連載は全3回です。
このほかのラインアップは次の通りです。
第1回 警察庁長官狙撃事件 900ページの捜査文書入手 新証言と矛盾も
第2回 「オウム信者犯行説」に固執した公安部 修正できなかった理由
特命班は、捜査本部内で名字のイニシャルからNと呼ばれていた中村泰(ひろし)受刑者(92)の関与を捜査していた。受刑者の身長は161センチで、事件当時の年齢は64歳。捜査本部が分析した犯人像とは一致せず、特に身長の違いは、公安部主体の捜査本部がオウム真理教と接点のない受刑者の犯人性を疑問視する要因の一つとなった。
目撃証言をした15人のうち10人は現場マンションの3階以上の住人。銃声を聞いてベランダや部屋の窓から、逃走する男を目撃していた。高い位置から、地上にいる人物の身長を正確に見極めるのは困難だったとみられ、目撃証言は「170センチ」「180センチ」「不明」とバラバラだ。残る5人のうち3人はいずれもマンションの管理人で、銃声を聞いて3人一緒に1階の管理人室から出たところで自転車で走り去る男を目撃した。3人のうち1人は身長を「170センチ以下165センチ以上」とし、捜査本部の犯人像とずれている。
また、残る2人はともに現場マンションに住む主婦と会社役員の男性。主婦は「男が走って行くのが見えた」と証言したが、目撃状況は文書からは不明だ。会社役員は当初「銃撃音がする直前に5~6メートルの距離から男を見た」と説明し身長を180センチとしていたが、事件から2カ月後の東京地検の聴取で170センチ前後に修正している。
果たして「狙撃犯」の身長は何センチだったのか――。記者は15人のうち最も至近距離で目撃したとされる会社役員の男性への取材を試みた。事件後に現場マンションから東京都外に引っ越していた男性は2022年10月、転居先の自宅前で取材に応じた。
男性によると、事件発生時刻ごろ、出勤のためマンションを出ると、入り口の植え込み付近に帽子、マスク、黒っぽいコート姿の不審者が座っていた。不審者から離れる方…
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