温暖化の国際目標、30年代前半にもアウト IPCCが示す分岐点
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持続可能な未来への窓は急速に閉じつつある――。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が20日公表した第6次統合報告書は、地球温暖化の悪影響が世界中に及び、気温上昇を抑える国際目標の達成も瀬戸際に立たされている現状を浮かび上がらせた。脱炭素化や被害軽減のための「適応策」強化は一刻の猶予も許されない。人類は気候危機を乗り越えることができるのか。
カウント始めた「時限爆弾」
「気候の時限爆弾は(爆発までの)カウントを始めている。報告書は人類が生き残るためのガイドブックだ」。国連のグテレス事務総長は、IPCCが9年ぶりにまとめた第6次統合報告書を受けて対策加速を訴えた。
2021、22年に公表された三つの作業部会の報告書を基に、世界の科学者93人が最新の知見をまとめた。
報告書によると、世界の平均気温は既に産業革命前から1・1度上昇しており、30年代前半にも1・5度に達する可能性が高い。熱波と干ばつが同時に発生する頻度の増加など、人間活動が原因の温暖化によって複数の異常気象が同時に起こる可能性も高まり、気候変動の悪影響は広範囲に広がっている。
こうした被害の拡大を止めるため、国際社会は平均気温の上昇幅を今世紀末までに1・5度に抑えることを事実上の国際目標に掲げる。だが、今のままでは「1・5度目標」を達成するために許容される二酸化炭素(CO2)の累積排出量を30年までに超えると予測され、あらゆる分野で急速かつ大幅な削減が必要だ。
IPCC第1作業部会で報告書の執筆に携わった国立環境研究所の江守正多上級主席研究員は「統合報告書は、この10年で世界を大転換しないと、住みやすい地球は失われると強いメッセージを発している」と指摘する。
1・5度に抑えるには、メタンなどを含めた温室効果ガスを35年までに19年比60%減、40年には69%削減しなければならないと指摘する。各国は35年までの削減目標を25年までに国連に提出することが推奨されており、今回の報告書が各国内の議論や今後の国際交渉の重要なベースになる。日本は30年度までに13年度比46%減という目標を掲げているが、35年や40年までの目標はまだない。今後削減強化や対策の前倒しを求める声が強まりそうだ。
また、1・5度目標実現には脱炭素への年間投資額を現在の3~6倍にする必要があるという。報告書は10~19年にかけて太陽光発電とリチウムイオン電池のコストは85%、風力発電は55%下がるなど、低コストで効果的な手段が既にあり、気候危機に対抗できる可能性が残されていることを強調した。【岡田英】
地域で脱炭素は進むか
IPCCの報告書は、地球温暖化を止めるには、CO2排出量を実質ゼロにする必要があると指摘する。日本は既に「50年までに実質ゼロ」という目標を掲げているが、政府は30年度時点でも発電量の19%をCO2排出量の多い石炭火力発電に頼る計画で、国全体で脱炭素の道筋が描けているとは言えないのが現状だ。
一方、世界では国に先んじて自治体レベルで対策強化を進める動きが広がりつつある。日本でも地域の特色を生かして実質ゼロを前倒ししようという試みが始まっている。
「気候変動を背景にした災害に遭った村だからこそ、脱炭素に向き合いたい」。熊本県球磨村の担当者は力を込める。
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