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現代作家として国際的に高い評価を受けている村上春樹さん。小説の執筆だけでなく、翻訳に、エッセーに、ラジオDJにと幅広く活躍する村上さんについて、最新の話題を紹介します。
村上春樹さん新作小説刊行 幻の中編の封印がついに解かれるか?
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1980年文芸誌に発表した「失敗作」
4月刊行の新作長編小説のタイトルは「街とその不確かな壁」だった! これは長く村上春樹さんの文学に親しんでいる者なら、すぐにピンとくる題だ。そう、1980年の文芸誌「文学界」9月号に発表され、単行本にも全集にも収録されなかった幻の中編(あるいは長い短編)「街と、その不確かな壁」である。
400字詰め原稿用紙で百数十枚の作品で、本人が「失敗作」と認める一方、やがて長編「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」(85年)の原型になったこともファンには知られていよう。新作のタイトルとは読点1字の違いがあるが、これは例えば短編「めくらやなぎと眠る女」(83年)が後に短く書き直された際、題が「めくらやなぎと、眠る女」(95年)に変わったように、村上作品にはあり得るパターンだ。
ただし、新作について2023年3月1日、新たに発表された情報はタイトルと表紙の書影などに限られ、旧作「街と、その不確かな壁」(以下は「旧作」と表記)との関係を速断はできない。しかし、版元の新潮社のウェブサイトには次のような宣伝文も追加された。
「その街に行かなくてはならない。なにがあろうと――<古い夢>が奥まった書庫でひもとかれ、呼び覚まされるように、…
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