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持田叙子・評 『よき時を思う』=宮本輝・著

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 (集英社・2200円)

90年生きた記憶、晩餐会が呼び覚ます

 一族郎党そろっての晩餐(ばんさん)――じつに絵になる。私たちの体内に伝わる古代の血をゆさぶる何かがある。世界芸術のアイコンだ。

 たとえばキリストと弟子がパンとぶどう酒を分かちあう名画「最後の晩餐」はその代表。ドイツの文豪トーマス・マンの大河小説『ブッデンブローク家の人々』はすばらしい聖夜のディナーで読者を圧倒し、昭和の銀行闘争をあばく山崎豊子『華麗なる一族』も、晩餐につどう大家族の肖像を冒頭におく。

 そして――ここに新しく令和の晩餐小説が加わった! 華麗というよりキラキラして可愛い。90歳を迎える金井家の「徳子おばあちゃん」が、自分で自分へのお祝いに一族ディナーを企画する。いつもは近江の古い町で静かに暮らす。しかしこの人にはたっぷり豊かな過去があるらしい。孫たちに発する注文やこだわりが半端ない。早く軽く、のライフスタイルに慣れる若者をビビらせる。

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