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「毎日テニス選手権」(通称・毎トー)ベテラン大会への出場に向け、練習頻度を上げていく杉村太蔵さん(43)。ショットの精度も上がり、懸案だった体力も向上した。しかし、全盛期だった高校時代のイメージに届かず、ギャップに悩む日々が続いている。そんな杉村さんの応援に駆けつけたのは「あの頃」に戦った相手だった。【杉本修作】
「テニスが楽しくない。高校時代には絶対しなかったミスをやってしまう」。練習開始から4カ月が過ぎた3月。杉村さんは口癖のように弱音を吐くようになった。
毎トー出場に向け、昨年11月から練習を開始。テレビコメンテーターや講演、地元の北海道旭川市での事業などで多忙を極め、当初は練習時間を週1回確保するのがやっとだった。しかし年が明け、杉村さんの挑戦を追った記事や動画が配信されると、多くの反響に背中を押されるように練習のピッチを上げた。狙ったショットがコートの枠内に収まる場面が増え、体力も、日々のジョギングやアルコール制限などで改善し、練習中の休憩が目に見えて少なくなった。
しかし、高校時代に国体少年の部の男子ダブルス優勝の輝かしい実績が頭に残る杉村さんにとって、今の状態は満足のいくものではない。コーチと練習試合をすると、序盤は鋭いサーブと、安定したネットプレーで接戦に持ち込むものの、勝敗の分かれ目となる中盤の大事なゲームで簡単にミスし、ズルズルとポイントを献上する展開が目立った。「大事な場面で心が折れる。高校の頃にこんなことで悩んだことはなかった」と理想とのギャップに苦しんでいた。
そんな杉村さんを応援しようと3月6日、全盛期の杉村さんと対戦経験のあるプレーヤーが練習コートを訪れた。島津製作所元実業団選手の菊水健人さん(52)だ。
毎トーは、杉村さんが出場予定の年齢別ベテラン大会のほか、18歳以下のジュニア、さらに年齢制限がなく国内プロ、実業団選手がしのぎを削る一般大会の3部門に分かれている。杉村さんは高校1年だった1995年、北海道の予選(現在は予選会は行われていない)で優勝。東京で行われた本戦に出場し、1回戦で戦った相手が菊水さんだった。6―7、3―6で敗れた杉村さんは「毎トーの試合を覚えている。実業団選手の高い技術を感じて、いい経験になった」と振り返る。
28年ぶりの対面に、菊水さんは「杉村さんが出場すれば、テニスのベテラン大会にスポットライトが当たる。多くの選手たちの励みになる」と激励した。すると、杉村さんは「試合に出ることに葛藤があります。国体で優勝したというプライド、見え。なかなか勇気がいることです」と胸の内を明かした。過去に対戦したことがある菊水さんだからこそ、思わず口にした本音。それでも「自分が試合に出ることで、挑戦者が増えればいい」と前向きな言葉で締めくくった。
対面の後、杉村さんは、けがでテニスから離れている菊水さんに代わり、島津製作所の押野紗穂選手(26)とゲーム形式の練習に汗を流した。女子選手とはいえ、一線で活躍するプレーヤー相手に互角の戦いを繰り広げた。悩みを克服したわけではないが、挑戦を続ける決意を新たにした杉村さん。試合本番まではあと3カ月、トレーニングの日々は続く。