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宗教と子ども

親の信仰の影響を受けて育った多くの「宗教2世」たちが声を上げ始めています。

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「輸血だけはダメ」15歳、父母の反対で手術できず 消えぬ痛み

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15歳で輸血拒否を経験した遥さん(仮名)。「エホバの証人」から離れた後も、自身の経験や2世信者らが置かれている状況を考え続けている=本人提供
15歳で輸血拒否を経験した遥さん(仮名)。「エホバの証人」から離れた後も、自身の経験や2世信者らが置かれている状況を考え続けている=本人提供

 宗教を理由に、親が子どもへの医療を拒むケースが後を絶ちません。中でも、キリスト教系新宗教「エホバの証人」は輸血拒否の教義で知られ、信仰の自由と救命を巡り、議論を呼んできました。医療現場はどう向き合ってきたのか、そして子どもの思いは。当事者に話を聞きます。(3回目/全3回)

輸血拒否を語る③宗教2世の遥さん(仮名)

 両親や親戚の多くがエホバの証人の信者という家庭で育ちました。幼い時から集会に通い、小学1年の頃まで神の存在を信じていました。ただ、言うことを聞かないとむちで打たれるのが嫌でした。「ハルマゲドンが来る」などと集会で毎週聞かされるのも、好きにはなれませんでした。

 信仰に熱心な母の指示で、輸血拒否の意思を示したカードを首からかけて生活しました。1995年の阪神大震災後、母は「地震で下敷きになった時に輸血拒否が伝わらなかったら大変だ」と心配し、寝ている時もカードを付けさせられました。

 15歳の時、虫歯でもないのに歯に激痛が走りました。寝返りを打ち、枕がほおに当たると痛みで目が覚めるほどでした。口に入れたものをかみ切れず、食事もできない状態になりました。

 母に付き添われて大学病院を受診すると、原因は歯のかみ合わせで、あごの骨を切って位置を調整すれば治ると説明されました。

 母は「輸血が必要ですか?」と聞きました。「難しい手術ではないけれど、もし大きな血管を傷つけたら輸血が必要になる。輸血の同意書は必要だ」と医師に言われると、母は「それならやらないです」と即座に断りました。

 その後も歯の痛みが消えなかったので、同意書なしで手術ができないかを聞くため、今度は父と一緒に受診しました。医師にエホバの証人の信者であることを告げ、「無輸血で手術をしてほしい」と伝えました。医師からはこう諭されました。「万が一の場合、命を助けるには輸血するしかない。手術をせずに放置すれば痛みがずっと続き、あごが外れたり、歯が割れたりするリスクがある」

 しかし、父は「輸血だけはどうしてもダメなんです」と譲りませんでした。父と医師は互いに感情的になり、激しい口論になりました。私はいたたまれず、「先生もういいです。輸血が必要なら手術は受けられません、受けたくないです」と告げました。医師は「そうですか」と悲しそうな様子でした。

「もう戻りません」と置き手紙

 帰り道、バス停で横にいた父は…

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