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精神科病院で患者虐待 根絶へ徹底解明が必要だ

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 精神科病院の入院病棟という「密室」での虐待事件が再び明るみに出た。原因を徹底的に調べて、根絶につなげなければならない。

 東京都は4月、八王子市の私立精神科病院「滝山病院」で、看護師らによる患者への虐待行為があったと認定し、医療法などに基づく異例の改善命令を出した。

 警視庁は、患者の頭をたたくなどしたとして暴行容疑で看護師2人を逮捕、1人を書類送検した。

 告発した弁護士によると、院内で撮影された動画には、看護師らが患者に暴言を吐き、ベッドに押し付ける様子などが映っていた。

 同病院では、亡くなるまで入院している「死亡退院率」が高いとの指摘も出ているが、病院側は高齢の重病患者を引き受けているためと説明している。

 虐待に関する情報提供を受け、都は度々聞き取り調査などを行ったが、確認できなかったという。

 改善命令では、第三者を交えた虐待防止委員会の設置や虐待防止マニュアルの整備などが病院に命じられた。都としても、なぜ見逃したのかを検証し、是正策を講じなければならない。

 院長は、関わっていた埼玉県内の精神科病院で2001年に診療報酬不正受給などが問題化した際に、保険医登録を取り消された経緯がある。

 滝山病院でも必要がないとみられる投薬などを行い、不正な診療報酬を請求していた疑いがあると弁護士らは指摘している。国には、保険医の再登録が妥当だったかを検証する責任がある。

 精神科病院での虐待や過剰診療が後を絶たない背景には、患者の声が届きにくいという事情がある。不必要な長期入院が多いと問題視されてきた。

 日本の現状に関し、国連の障害者権利条約の委員会は、患者の人権が守られていないとして、入院制度などの改善を求めている。

 昨年の法改正で、自傷などの恐れがない場合、入院期間は原則半年以内とされた。都道府県の研修を受けた支援員が入院患者と面会する制度も設けられた。

 だが、病院の裁量に任されている面もあり、不十分との指摘もある。自治体側の体制づくりも緒に就いたばかりだ。実効性を高める取り組みが求められる。

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