遠のいた認知症の絶望 「自分だけじゃない」/8
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同じ困難に向き合う人が近くにいて、笑顔でいてくれたら、どれだけ心強いでしょうか。元オリンピック選手でアルツハイマー型認知症となった柿下秋男さん(69)=東京都品川区=も同じ認知症の人たちとの出会いを力に変えていきます。【銭場裕司】
<この連載は全14回です。その他のラインアップはこちらからご覧ください。>
柿下さんは2020年1月、青果物の競りを務めるなど長年働いた東京・大田市場を久しぶりに訪れた。愛情を込めて「やっちゃ場」と呼ぶ場所だ。「バカヤロー」の言葉はよく飛ぶものの、表裏なくカラッとして明るい大好きな職場だった。
会社を去ったのは3年以上前で、かつての同僚たちが「生きていたか。よく立ち直ったな」と声をかけてくる。苦しい状態を脱して笑顔を取り戻した姿を心から喜んでいた。
絶望の中での出会い
この日、柿下さんと市場に出かけた人がいた。若年性のアルツハイマー型認知症の後藤智さん(60)だ。
通っていた介護施設の職員で、柿下さんが参加する「みんなの談義所(だんぎしょ)しながわ」のメンバーでもある男性から、「会わせたい人がいる」と紹介されて知り合ったばかり。市場では今まで訪れたことがない仲卸の店に入ったり、一緒に天丼を食べたりして、久しぶりに充実した時間を過ごせた。
発症したのは55歳。約30年勤めた会社で役職から降格され「今の状態で与えられる仕事はない」と宣告された。仕事を続けられなくなり「(人生が)終わった」と絶望した。
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