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オリンピアン、認知症になる

1976年モントリオール五輪に出場した柿下秋男さんが認知症に。今を生きる日々を追いました。

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遠のいた認知症の絶望 「自分だけじゃない」/8

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いずれも認知症の当事者で、一緒に活動する機会も多い(左から)後藤智さんと柿下秋男さん、三橋昭さん=東京都品川区で2023年5月9日午後9時37分、銭場裕司撮影
いずれも認知症の当事者で、一緒に活動する機会も多い(左から)後藤智さんと柿下秋男さん、三橋昭さん=東京都品川区で2023年5月9日午後9時37分、銭場裕司撮影

 同じ困難に向き合う人が近くにいて、笑顔でいてくれたら、どれだけ心強いでしょうか。元オリンピック選手でアルツハイマー型認知症となった柿下秋男さん(69)=東京都品川区=も同じ認知症の人たちとの出会いを力に変えていきます。【銭場裕司】

 <この連載は全14回です。その他のラインアップはこちらからご覧ください。>

 柿下さんは2020年1月、青果物の競りを務めるなど長年働いた東京・大田市場を久しぶりに訪れた。愛情を込めて「やっちゃ場」と呼ぶ場所だ。「バカヤロー」の言葉はよく飛ぶものの、表裏なくカラッとして明るい大好きな職場だった。

 会社を去ったのは3年以上前で、かつての同僚たちが「生きていたか。よく立ち直ったな」と声をかけてくる。苦しい状態を脱して笑顔を取り戻した姿を心から喜んでいた。

絶望の中での出会い

 この日、柿下さんと市場に出かけた人がいた。若年性のアルツハイマー型認知症の後藤智さん(60)だ。

 通っていた介護施設の職員で、柿下さんが参加する「みんなの談義所(だんぎしょ)しながわ」のメンバーでもある男性から、「会わせたい人がいる」と紹介されて知り合ったばかり。市場では今まで訪れたことがない仲卸の店に入ったり、一緒に天丼を食べたりして、久しぶりに充実した時間を過ごせた。

 発症したのは55歳。約30年勤めた会社で役職から降格され「今の状態で与えられる仕事はない」と宣告された。仕事を続けられなくなり「(人生が)終わった」と絶望した。

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