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40年介護した妻を車椅子ごと海へ 被告が悔やむ「最後のうそ」

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藤原宏被告が妻照子さんを車椅子ごと海に突き落とした岸壁=神奈川県大磯町で2023年4月5日午前10時53分、園部仁史撮影
藤原宏被告が妻照子さんを車椅子ごと海に突き落とした岸壁=神奈川県大磯町で2023年4月5日午前10時53分、園部仁史撮影

 整備しながら40年間使い続けた特注の車椅子を力いっぱい押し、妻を海に突き落とした。「愛する人を、最後はうそをついて殺してしまった」。2022年11月に神奈川県大磯町の漁港で起きた殺人事件。40年間介護してきた妻照子さん(79)を殺害したとして殺人罪で起訴されて勾留中の藤原宏被告(81)が毎日新聞の取材に応じ、記者の前でそう悔やんだ。最愛の人を手にかけるまでに何があったのか。【園部仁史】

 藤原被告は23年2月以降計11回、拘置施設で記者と接見したほか、経緯などをつづった手記も寄せた。

 初めて接見した時、被告は記者をやや警戒しているように感じた。世間話や雑談には応じるものの「事件に関することは語れない」と告げられた。

 それが、3回目の接見の時だった。被告は「こんな話を信用できるのか分かりませんが」と前置きした上で、事件当日のこと、妻との生活のことについて、とつとつと話し始めた。

 その後の接見も含め、被告の口から何度も聞かれたのは後悔や謝罪の言葉だった。「彼女には一生つらい思いをさせないと決めていたが、最後は殺してしまった。申し訳ないことをした」。自ら妻を介護することへの強いこだわりもにじませ「(どちらかが)死ぬまで介護するつもりだった」などと語った。

 起訴状などによると、被告は22年11月2日午後5時半ごろ、漁港の岸壁から車椅子ごと照子さんを海に突き落とし、溺死させたとされる。照子さんは1982年に脳梗塞(こうそく)を患い、左半身がまひ。常時介護が必要な「要介護3」の認定を受けていた。

 被告によると、26歳の時に勤務先のスーパーマーケットで同僚だった照子さんと結婚し2人の息子に恵まれた。「立派に育ってくれ、私にとって自慢の2人でした」と目を細めた。

 だが、40歳を前に妻が脳梗塞で倒れる。医師からは「脳梗塞には前兆がある。今後は見逃さないように」と助言された。好きだった車の運転ができなくなった妻を見て、被告は「仕事に追われ、家族を見ていなかった私の責任。これ以上つらい思いをさせない」と心に決めたという。

 被告はスーパーを辞め、比較的時間の融通が利くコンビニエンスストアの経営などで生計を立てながら自宅で介護を続けた。息子が独立して2人暮らしになった後も妻のために3食を手作りした。自宅マンションのベランダには妻が好きな花をいくつも並べた。近所の住民によると、照子さんは「料理はおいしいし、夫が花に水をやってくれる」とよくうれしそうに話していたという。

 そんな2人の生活は、事件の約10カ月前に暗転する。…

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