村上春樹さん「人々は要塞の中で暮らしているよう」 米国で講演
- ツイート
- みんなのツイートを見る
- シェア
- ブックマーク
- 保存
- メール
- リンク
- 印刷

作家の村上春樹さんは、特別客員教授として招かれ滞在中の米ウェルズリー大で4月27日(現地時間)、「疫病と戦争の時代に小説を書くこと」と題する講演を行った。刊行したばかりの新作長編小説「街とその不確かな壁」(新潮社)の内容を紹介しつつ、新型コロナウイルス禍やロシアによるウクライナ侵攻と重ね合わせて語った作家の言葉に、同大の学生や教員ら約900人が熱心に耳を傾けた。現地で講演の様子を取材し、村上さんのメッセージと聴衆の熱気に触れ、この作家の国際的な影響力と人気の高さを改めて実感した。【大井浩一】
ウェズリー大滞在中 最大のイベント
マサチューセッツ州のボストン市郊外にあるウェルズリー大は1875年に開校した、米国を代表する名門女子大学の一つ。同市街から車で30分ほどの緑に恵まれた丘陵地帯に位置する広大なキャンパスは遅い春を迎えたところで、点在する歴史的な欧風建築の校舎が敷地内の湖や木々の芽吹き、桜などさまざまな花々と相まって美しい。
5月までの4カ月間、村上さんはこの大学で教職員向けのセミナーを持ったり、日本文学の授業に出たりした。講演は滞在中の最も大きなイベントで、格調高いレンガ造りの「ウォルシュ同窓生ホール」で開催された。日中の気温が10度前後と肌寒く、にわか雨が降ったかと思うと青空がのぞく不安定な天候の中、場内はほぼ満席の聴衆で埋まり、村上作品の英訳で知られるジェイ・ルービンさん(ハーバード大名誉教授)の姿もあった。
開会時刻の午後6時を10分余り過ぎたところで、作家を招いたウェルズリー大の「スージー・ニューハウス人文学センター」所長で日本文学を教えるイブ・ジンマーマン教授が、村上さんの経歴などを紹介。「彼をこうして大学に迎えられたのは、私にとって夢が現実になったようなものです」と述べた。
続いて舞台左側の演壇に姿を見せた村上さんは「グッド・イブニング」とあいさつし、英語による講演を始めた。初めに、20年以上前に米国で長編小説「ねじまき鳥クロニクル」(1994~95年刊行)を執筆した際の思い出を話し、「それから随分たって、ここに帰ってくることができ、うれしく思います」と語った。任期が終わって帰国すれば「フェンウェイ・パーク(大リーグ・レッドソックスの本拠地球場)やダンキンドーナツ(本社がマサチューセッツ州にある)を懐かしく思い出すでしょう」などと、時折ユーモアをこめて、笑いを誘うことも忘れない。
新作の謎「時代に完全に当てはまる」
やがて、ちょうど2週間前に日本で発売された「街とその不確かな壁」に言及し、概要を説明した。…
この記事は有料記事です。
残り1675文字(全文2754文字)