韓国出生率「0.78ショック」は日本の未来か 教育投資が負担に

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韓国の2022年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数)は0・78を記録した(写真はイメージ)=ゲッティ
韓国の2022年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数)は0・78を記録した(写真はイメージ)=ゲッティ

 1人の女性が一生に産む子どもの数「合計特殊出生率」は0・78――。韓国統計庁が2月に発表した2022年の数値に、日本でも衝撃が広がった。同じく少子化が深刻化する日本の1・30(21年)を大幅に下回る。日韓の社会政策に詳しい、ニッセイ基礎研究所の金明中(キム・ミョンジュン)主任研究員は「日本と韓国の少子化の原因は重なっている」と指摘する。これは、日本の未来なのか?【大沢瑞季】

 韓国の国会立法調査処は14年、1・19(13年)が改善されない場合の推計結果として、「韓国は2750年には消滅する」と発表していた。ショッキングな内容に当時も大きなニュースとなったが、それから約10年。状況はさらに悪化の一途をたどる。金研究員は「残念ながら、韓国が消滅する時期は早まってしまったと言えるでしょう」と嘆く。

 韓国では、15年に1・24を記録して以降、7年連続で過去最低を更新。「1」を下回るのは、経済協力開発機構(OECD)加盟国で唯一、韓国だけだ。

過熱する教育 のしかかる塾代

 韓国政府は20年近く前から少子化対策に莫大(ばくだい)な予算を投じてきた。にもかかわらず少子化が進む背景に、金研究員は複数の要因を挙げる。

 夜10時。ソウル市内の道路には、車がずらりと並ぶ。塾や習い事を終えた子どもたちが、旅行用の大きなキャリーバッグを引いて次々と乗り込んでいく。バッグには、複数の塾を“はしご”するためのテキストやノートが詰め込まれているという。

 夜の車列に加わるソウル在住の40代女性、ヨンジャさん(仮名)は、小学1年生の双子の男の子を育てる。「家を売ってでも、子どもの教育を優先します。勉強には、やるべき時期があり、今がその時です」。難関大合格に向け、2人の受験勉強は始まっている。

 塾や英語などの習い事は週6日。子ども2人の教育費は月24万円にのぼる。

 共働きだが、家計はいつも赤字だ。貯金を取り崩し、祖父母から援助を受ける。

 ただ、珍しいケースではない。

 韓国には、収入より教育費の支出が上回る教育貧困層(エデュプア)という言葉がある。金研究員によると、特にソウル市江南(カンナム)区は教育熱心な家庭が多く暮らす。有名塾に年200万円以上を費やしたり、月に10万円を超えるプライベートレッスンを受けさせたりする親も多いという。金研究員は言う。

 「韓国では、受験競争を勝ち抜かなければ幸せになれないという親の価値観は根深く、教育に投資しないのは、子どもの将来にとって申し訳ないことだと考えているのでしょう」

 子ども1人にかかる金銭的な負担が重いことが、少子化の大きな一因となっている。

少子化対策が“課金”を後押し?

 岸田文雄首相は23年3月に「次元の異なる少子化対策」を打ち出した。そのたたき台には、児童手当の所得制限撤廃などを盛り込む。

 少子化対策で先行する韓国では、18年から児童手当(子ども1人当たり毎月約1万300円)の支給を始め、所得制限はない。さらに23年から「親給与」として、0~1歳を養育する世帯に月約3万6500~7万3000円の支給を始め、24年度には更に増額する。だが、効果が十分に出ているとは言えないという。

 金研究員は「所得が低い世帯は、経済的な余裕につながるでしょう」とした上で、「富裕層の多くは『もう一人子どもを』とはならず、支援金でもっと良い教育を受けさせようと、更に“課金”する傾向がある。結果的に教育格差が広がっているのが現状です」と説明する。

若者の高い失業率

 若者が置かれている厳しい現実も、少子化の背景にある。

 韓国の経済成長率は、12年に2%台に低下し、そ…

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