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「海苔汁(のりじる)の手際見せけり浅黄椀(あさぎわん)」。芭蕉が浅草の弟子を訪れた時の句だ。江戸時代前期には浅草ノリが名物になった。紙をすく手法で板ノリを作ったという。養殖用の木の枝が立ち並ぶ品川沖を背景に火鉢でノリをあぶる女性を描いた浮世絵も残る▲すしの普及で欧米でも知られるようになったが、かつては黒い紙のようだと敬遠されたと聞く。常食するのは東アジアぐらいと思っていたが、英ウェールズ地方にもラバーブレッドと呼ばれるつくだ煮に似た伝統食があるそうだ▲その英国の女性が養殖に多大な貢献をした。戦後、英国の海岸でノリが夏に貝殻の中で育つことを発見したドゥルー博士だ。最大の産地である九州の有明海に臨む熊本県宇土(うと)市にブロンズ像の顕彰碑が建つ▲ノリは初春の季語で11月ごろから春にかけて収穫する。だが、今春は有明海で異変が起きた。少雨による海の栄養不足や赤潮で記録的な不作になり、入札価格が高騰した。主要メーカーは6月1日の出荷分からの値上げを発表している▲ロシアのウクライナ侵攻やエネルギー価格高騰の影響で値上げが相次ぎ、電気代も上がる。ノリ巻きやノリおにぎりは江戸時代からの歴史を持つそうだが、扱う飲食店は大変だ▲ドゥルー博士の発見でノリが5月から8月にかけてカキの貝殻の中で「タネ」になるまで育てられるようになり、人工採苗による養殖が実用化された。朝食には味付けノリが必須という人もいるだろう。これから伝統の味が順調に育つことを願いたい。