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環境や社会問題への取り組みを重視する「ESG」(環境、社会、企業統治)。日本でも投資や企業の経営方針に取り入れる動きが進むが、先行した米国では激化する党派対立の火種になっている。脱炭素や多様性の動きに逆行する「反ESG」が、保守派の野党・共和党の新たな旗印となり、2024年の大統領選でも主要な争点の一つになりそうだ。影響は国外にも飛び火している。
「我々の年金システムにESGは必要ない」「保守派を差別する『ウオーク』(Woke)な銀行はいらない」。大統領選に向けた共和党候補の指名争いに参戦した南部フロリダ州のデサンティス知事は5月30日、出馬表明後に初めて開いた中西部アイオワ州での集会で声を張り上げた。「ウオーク」は、環境や人種、性差別などの問題で社会正義を重んじる人々を保守派がやゆする文脈で使われる。日本語では「意識高い系」に似た意味がある。
「ウオークな政治イデオロギー」と反発
フロリダ州では5月、デサンティス氏の主導で「反ESG法」が成立した。「投資は収益の最大化を優先すべきだ」との立場から、州関連の年金基金の運用や地方債の発行、州政府の物品やサービスの調達などでESGを考慮することを事実上禁じる内容だ。州と取引する金融機関には、ESGへの取り組みを評価する外部格付けの使用も認めない。ESGは「『ウオーク』な政治イデオロギーだ」と異を唱え、一掃を目指す初めての州法で、7月に施行される。
「反ESG」で先陣を切ったのは南部テキサス州だった。アボット州知事(共和党)の指示の下、州政府は22年夏、化石燃料にかかわる企業への投資を抑制している金融機関のリストを公表。名前が載った米資産運用最大手ブラックロックなどに対し、年金基金との取引停止をちらつかせて投資方針の撤回を迫った。テキサス州の経済を支えてきた石油・天然ガス産業の保護が背景にあるが、ESGの考え方はバイデン政権の民主党寄りだとみなされてきたことも影響した。
保守派による「反ESG」の動きは全米レベルで先鋭化している。
米連邦議会の上下両院は今年2~3月、企業年金の運用にESG投資を組み入れることを認めた労働省規則の「無効化」を求める決議を賛成多数で可決した。下院多数派の共和党が主導。上院は民主党が多数派を占めるが、地元に化石燃料産業を抱える議員が造反した。環境や人権などの価値観を重視するバイデン大統領は、政権発足後、初となる拒否権を行使して成立を阻止した。
バイデン氏は「ESGの要素が市場、産業、ビジネスに重大な影響を与える証拠は豊富にある」と述べ、ESG推進を維持する姿勢を明確にした。ただ、デサンティス氏は、全米18州の共和党知事とともに「反ESG」同盟を結成し、バイデン政権や金融機関への圧力を強めている。
国連主導団体、リスク回避で脱退相次ぐ
こうした中、国内外で米保守派による「反ESG」リスクを回避する動きも表面化してきた。
保険業界では21年、50年までの温室効果ガス排出実質ゼロ(ネットゼロ)を目指し、国連環境計画(UNEP)の主導で国際団体「ネットゼロ保険同盟」(NZIA)が発足した。だが、今春から離脱する企業が相次いでいる。
この動きは、ESGに焦点を当てた保険業界の連携が保険料の上昇などを招いているとして、米23州の司法長官がNZIAが反トラスト法(独占禁止法)に抵触する可能性があると連名で警告した直後から、芋づる式に加速した。日本企業ではSOMPOホールディングス(HD)、東京海上HDなど3社が5月下旬までに離脱し、NZIA全体でも加盟社が半数近くにまで減っている。
離脱した企業は、脱炭素への取り組みを維持する方針を強調している。だが、横やりを入れられた形のUNEPは、NZIAからの離脱が続く背景に「最近の米国内での議論」が影響していることを認めた上で、「気候変動という緊急事態に対処するためには、根本的かつ緊急の協調が必要だ」と危機感を募らせている。【ニューヨーク八田浩輔】
◇
米国で広がる「反ESG」の背景には何があるのか。日本を含む国際社会にどう波及する可能性があるのか。新著「ESG投資の成り立ち、実践と未来」(日本経済新聞出版)でESG投資の最新潮流に迫ったコロンビア大客員教授の本田桂子氏と、法的な観点から日本企業のESGへの取り組みをサポートしてきた弁護士(日本・米ニューヨーク州)の蔵元左近氏に聞いた。
ESG投資、定義を明確にして発展を
本田桂子・米コロンビア大客員教授
米国では、リターン(得られる利益)を最大化することが、年金資産を運用する機関の「受託者責任」だと考えられていた。このため、ESG…
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