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紛争や迫害で故郷を追われる人が世界で増え続けている。日本も役割を果たさなければならない。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、昨年末時点で1億840万人に上ると発表した。1年間で1910万人増え、過去最大の増加幅となった。
主な要因はロシアのウクライナ侵攻だ。UNHCRは「第二次世界大戦以降、最も急速に広がった難民危機だ」と指摘している。
グランディ国連難民高等弁務官は「より多くの国際的な支援が求められている。責任の平等な分担も重要だ」と呼びかけた。
しかし、日本の取り組みは遅れている。昨年は過去最多の202人が難民と認められたが、認定率は2%と極めて低い。
今年6月に入管法が改正され、難民認定申請を事実上、2回までに制限する規定が盛り込まれた。
申請を繰り返し、ようやく認められた人もいる。にもかかわらず、今後は3回目以降だと、審査中でも強制送還が可能になる。
門戸広げる仕組み必要
「日本では守られるべき人たちが保護されていない」。国会審議に参考人として出席した20代半ばのトルコ国籍のクルド人、ラマザンさんは訴えた。
家族で申請を続けてきたが、難民とは認められていない。トルコ国籍のクルド人が認定された例はこれまでに1件だけだ。
認定のハードルが高いまま、申請を制約すると、保護すべき人を無理やり危険な場所に帰らせることになりかねない。
改正法成立後、NPO法人「難民支援協会」には申請者から「自分も送還されてしまうのではないか」との声が寄せられている。
難民問題に詳しい阿部浩己・明治学院大教授は「日本は難民条約に加入し、受け入れを約束している。国際社会の一員として、義務を果たさなければならない」と強調する。
門戸を広げる必要がある。独立した第三者機関に認定手続きを担わせるなど、制度の見直しを早急に検討すべきだ。
受け入れ後の支援も課題だ。
難民と認定された人には国の定住支援プログラムがある。原則6カ月間、日本語教育を受けられ、生活費も支給される。ただ、教育の内容は基礎的なものにとどまり、支給額も十分ではない。
千葉大の小川玲子教授は、イスラム主義組織タリバンが復権したアフガニスタンから日本に逃れ、難民と認められた人々の追跡調査を実施している。
定住支援プログラム終了時点では、大半が就職できていなかった。その後に職を得た人も派遣社員やアルバイトが多い。
子どもの教育を心配する人も目立つ。将来への不安などから、精神的ケアを受けている人もいる。
定住支援の拡充も急務
家族8人で栃木県小山市に住むアフガン人男性(51)は、現地で日本大使館の仕事をしていた。昨年8月に難民認定され、今は車のメンテナンスなどに携わる。
職場でのコミュニケーションは難しく、収入は月十数万円だ。年長の子たちは、進学を目指して日本語学校に通う。「日本の政府や社会、企業は、私たちをサポートしてほしい」と願う。
外国と深い関わりがあった人はタリバン支配下、身に危険が及ぶ恐れがある。日本に住み続けたい人は多いが、物価高の中、民間の支援が頼みの人もいる。
小川教授は「国際協力には積極的だが、難民には門戸を閉ざす日本の姿は、バランスを欠いている」と批判する。
ドイツは難民の定住支援に力を入れ、米国も支援団体とのネットワークを整えている。受け入れに積極的なカナダでは、国の要職に就いたり、会社を創業したりした人も出ている。
かつて日本の大学院で学び、アフガンから逃れてきた男性(43)は、福岡市で英語を教えている。
祖国には英語を話せる人が少なくない。「教育面で人材を上手に活用できれば、日本に貢献できるはずだ」と語る。
難民が安心して暮らしながら、社会を支える存在になるための環境整備も欠かせない。
阿部教授は「ウクライナの避難者を支援したことによって、日本社会に難民の受け入れ能力があることは証明された」と話す。
難民に手を差し伸べる社会では、人権や多様性が尊重される。そうした意識を広めたい。