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地球環境を守りながら、全ての人が豊かさを享受できる。そうした世界の実現を目指す国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の取り組みが停滞している。
貧困の根絶、健康の増進、教育機会の確保、気候変動対策の推進、持続可能な経済成長など、17の目標を掲げる。2015年に採択され、今年はゴールの30年までの折り返し地点に当たる。
だが、現状は厳しい。国連は今年6月、「達成の道筋から大きく外れている」と警鐘を鳴らす報告書をまとめた。生活や社会活動の基盤となる食、健康、環境分野の改善が著しく遅れ、低所得国が取り残される構図が強まった。
逆風となっているのは、ウクライナ危機、異常気象の頻発、コロナ禍、世界経済の低迷などだ。危機に直面した各国が内向きな傾向を強めた結果、国際社会の分断が深まっている。
達成への逆風が強まる
17の目標は、状況悪化に歯止めをかけ、望ましい世界を実現するための道しるべと言える。ただし、理想を掲げるだけでは人々を動かすことは容易ではない。
これまでに明らかになった課題を検証し、新たな戦略を立てることが必要だ。
社会や人々の行動を変えるカギの一つが経済活動だ。ビジネスが、結果として環境や社会にとってのプラスにつながるような仕組みを作らなければならない。
日本の商人が大事にしてきた「三方よし」というモットーは、今のSDGsにつながる考え方だ。「買い手よし、売り手よし、世間よし」と、社会に貢献してこそ「良い商売」とされてきた。
その精神を、定款に盛り込んでいるのがロート製薬だ。会社を「社会の公器」と位置付け、社会課題の解決を経営理念に掲げる。
南米アマゾンでは、現地法人が先住民族を対象にした「白内障撲滅プロジェクト」を20年以上続け、眼科の医療サービスや手術用品を無償で提供している。
新規事業は「社会のためになるのかどうか」が採用基準だ。食料自給率の向上と環境に配慮した農業振興を目指す農業法人や、目薬容器の廃プラスチックを活用し、サングラスを生産するベンチャーが生まれた。サングラスの売り上げの1割は、インドでの白内障手術の支援に充てる。
「利益を、株主に加え、いかに社会へ還元するかという視点に立てば、企業ができることは多くある」。それが同社の訴えだ。
現状を変える大きな力になる可能性を秘めているのが、若者の行動である。
宮城県農業高(名取市)の生徒たちは数年前、海岸の清掃活動をしていた際、「カエルの卵」のようなごみが大量にあるのを見つけた。稲作用肥料の効果を長期間保つためのプラスチック製カプセルだった。
生徒たちは、カプセルを使わない畑作用の肥料を転用し、稲作での実証実験に取り組んだ。収量は変わらず、食味コンテストで全国1位となるレベルの高い米が収穫できることが分かった。
社会変える若者の行動
成果は各方面から注目され、全国農業協同組合連合会(JA全農)などが、30年までにカプセルをゼロにする方針を打ち出した。大人たちが無批判に続けてきた「常識」を、高校生が疑い、社会を変える流れを生んだ。
電通の調査によると、日本でSDGsの具体的な内容まで知っている人は4割だったが、10代では男性は6割近く、女性は7割を超えていた。一方、国連の23年版SDGs達成度ランキングで、日本は前年の19位から21位へ下がった。
先進的な取り組みを広げ、若者の関心の高さを政策に反映するのは、政治の役割だ。
SDGsに詳しい蟹江憲史(のりちか)・慶応大教授は「現状のままでは、異常気象も経済格差も取り返しのつかないことになる。各国の本気度が問われている」と強調する。省庁横断的に政策を進める法的な基盤を整え、社会の方向性を示すことも必要だろう。
「地球の限界」を回避するために、残された時間は少ない。大局的なかじ取りが求められる。
今月には、国連でSDGsをテーマにしたサミットが開催される。何が不足していたのか。どの分野に集中的に力を注ぐべきか。国際社会は危機感を共有し、一歩ずつであっても前進を続けなければならない。