特集

先週のピックアップ

日曜朝刊「先週のピックアップ」で取り上げた記事をまとめています。

特集一覧

「餓死すればキリストに会える」数百人を集団死させたカルト教団の闇

  • ブックマーク
  • 保存
  • メール
  • 印刷
ケニア東部シャカホラの森で遺体の掘り起こしをする地元警察の関係者ら=2023年5月10日、 Latin America News Agency・ロイター
ケニア東部シャカホラの森で遺体の掘り起こしをする地元警察の関係者ら=2023年5月10日、 Latin America News Agency・ロイター

 アフリカ東部ケニアの森の中で、キリスト教系の新興宗教団体が「餓死すればキリストに会える」と多数の信者を死に追いやっていたことが今年3月に発覚し、カルト宗教を巡る大きな社会問題となっている。見つかった遺体は子供や女性を中心に400人を超え、現在も発掘作業が続く。警察の捜査を突き動かしたのは、脱出した一人の5歳児の証言だった。

 マリンディは首都ナイロビの南東約500キロにあるインド洋に面した都市だ。地元のNGO「マリンディ地域人権センター」代表のビクター・カウドさん(32)は3月10日午後5時過ぎ、海沿いの雑居ビルにある事務所を閉めて帰宅しようとしていた。そこに突然、6人の男性がやって来た。

 「親族の子供3人がシャカホラで餓死させられそうだ。警察に20回以上通報したが全く取り合ってくれないので、これから自分たちでマッケンジーを殺してくる」。皆、短刀まで持参していきりたっていた。

 「マッケンジー」とは地元の教会「グッド・ニューズ・インターナショナル」(GNI)の代表、ポール・マッケンジー容疑者=事件発覚後に殺人などの疑いで逮捕=である。年齢は50歳前後で、元々はタクシー運転手をしていたが、2000年代にマリンディに自分の教会を設立した。

 英国の植民地だったケニアは国民の8割以上がキリスト教徒で、カトリックや英国教会といった主流派に加え、中小の独立系教会が無数にある。GNIもその一つで、マッケンジー代表の巧みな説教が評判を呼び、ナイロビなど各地に支部を持つまでになった。最盛期には数千人規模の信者がいたとされる。

 この記事は、ケニアのカルト教団「グッド・ニューズ・インターナショナル」(GNI)が引き起こした事件と、その背景などについて多角的に紹介します。記事には以下の内容が含まれています。写真はこちら
 ・教会閉鎖され森に集団移住 社会と隔絶し、過激化
 ・信者には富裕層も なぜ破滅的な信仰にのめり込んだのか
 ・人民寺院など過去のカルト教団による事件との違いは?
 ・代表は逮捕後も当局に対決姿勢 起訴・有罪にできるのか

独自の聖書解釈、過激な教え

 「病院や学校に行ってはいけない」「美容院にも行ってはいけない」。マッケンジー代表は16年ごろから、独自の聖書解釈に基づき、過激な教えを説くようになった。多数の信者が従って社会問題になったため、政府は19年に教会の閉鎖を命令した。

 すると、マッケンジー代表や一部の信者は「農業に従事する」と、マリンディから車で1時間ほどのシャカホラ地区にある森へ集団移住して姿を消し、その後は世間の話題にも上らなくなった――。

 3月10日にNGO事務所を訪れた男性6人は、信者の家族や元信者だった。代表のカウドさんの第一印象は「教団内の内輪もめだろう」。この現代で「餓死」という話も荒唐無稽(むけい)に思えた。ただ、教会代表に対する殺人計画だけは説得して思いとどまらせ、「車を用意してくれるなら」という条件付きで後日の現地調査を決めた。

 3月20日、カウドさんは元信者らの案内で現場に向かった。車が通れない森の中を歩くこと2時間。目に入ってきたのは針金で後ろ手に縛られた上、木にくくり付けられた男児だった。あばら骨が浮き出るほど痩せて弱っていたが、拘束を解かれると、5歳だという男児は悲惨な体験を話し始めた。

「死ぬまでおなかをすかせていなさい…

この記事は有料記事です。

残り4000文字(全文5375文字)

あわせて読みたい

マイページでフォローする

この記事の特集・連載
すべて見る
この記事の筆者
すべて見る

スポニチのアクセスランキング

現在
昨日
1カ月

ニュース特集