「餓死すればキリストに会える」数百人を集団死させたカルト教団の闇
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アフリカ東部ケニアの森の中で、キリスト教系の新興宗教団体が「餓死すればキリストに会える」と多数の信者を死に追いやっていたことが今年3月に発覚し、カルト宗教を巡る大きな社会問題となっている。見つかった遺体は子供や女性を中心に400人を超え、現在も発掘作業が続く。警察の捜査を突き動かしたのは、脱出した一人の5歳児の証言だった。
マリンディは首都ナイロビの南東約500キロにあるインド洋に面した都市だ。地元のNGO「マリンディ地域人権センター」代表のビクター・カウドさん(32)は3月10日午後5時過ぎ、海沿いの雑居ビルにある事務所を閉めて帰宅しようとしていた。そこに突然、6人の男性がやって来た。
「親族の子供3人がシャカホラで餓死させられそうだ。警察に20回以上通報したが全く取り合ってくれないので、これから自分たちでマッケンジーを殺してくる」。皆、短刀まで持参していきりたっていた。
「マッケンジー」とは地元の教会「グッド・ニューズ・インターナショナル」(GNI)の代表、ポール・マッケンジー容疑者=事件発覚後に殺人などの疑いで逮捕=である。年齢は50歳前後で、元々はタクシー運転手をしていたが、2000年代にマリンディに自分の教会を設立した。
英国の植民地だったケニアは国民の8割以上がキリスト教徒で、カトリックや英国教会といった主流派に加え、中小の独立系教会が無数にある。GNIもその一つで、マッケンジー代表の巧みな説教が評判を呼び、ナイロビなど各地に支部を持つまでになった。最盛期には数千人規模の信者がいたとされる。
この記事は、ケニアのカルト教団「グッド・ニューズ・インターナショナル」(GNI)が引き起こした事件と、その背景などについて多角的に紹介します。記事には以下の内容が含まれています。写真はこちら
・教会閉鎖され森に集団移住 社会と隔絶し、過激化
・信者には富裕層も なぜ破滅的な信仰にのめり込んだのか
・人民寺院など過去のカルト教団による事件との違いは?
・代表は逮捕後も当局に対決姿勢 起訴・有罪にできるのか
独自の聖書解釈、過激な教え
「病院や学校に行ってはいけない」「美容院にも行ってはいけない」。マッケンジー代表は16年ごろから、独自の聖書解釈に基づき、過激な教えを説くようになった。多数の信者が従って社会問題になったため、政府は19年に教会の閉鎖を命令した。
すると、マッケンジー代表や一部の信者は「農業に従事する」と、マリンディから車で1時間ほどのシャカホラ地区にある森へ集団移住して姿を消し、その後は世間の話題にも上らなくなった――。
3月10日にNGO事務所を訪れた男性6人は、信者の家族や元信者だった。代表のカウドさんの第一印象は「教団内の内輪もめだろう」。この現代で「餓死」という話も荒唐無稽(むけい)に思えた。ただ、教会代表に対する殺人計画だけは説得して思いとどまらせ、「車を用意してくれるなら」という条件付きで後日の現地調査を決めた。
3月20日、カウドさんは元信者らの案内で現場に向かった。車が通れない森の中を歩くこと2時間。目に入ってきたのは針金で後ろ手に縛られた上、木にくくり付けられた男児だった。あばら骨が浮き出るほど痩せて弱っていたが、拘束を解かれると、5歳だという男児は悲惨な体験を話し始めた。
「死ぬまでおなかをすかせていなさい…
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