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中村文則の書斎のつぶやき

芥川賞作家・中村文則さんが、いろいろな場所の「書斎」から、さまざまなことをつぶやきます。

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中村文則の書斎のつぶやき

処理水の扱いで、お願いする

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中村文則さん=本人提供
中村文則さん=本人提供

 今、福島第1原発の処理水放出を巡り、議論が起こっている。

 僕は福島大学で4年を過ごした。人間不信だった僕は、福島の人々の温かさに触れ、自分が再生していくように感じた。福島は第二の故郷と思っている。だから今、とても悲しい。

 作家の大江健三郎さんは、ずっと原発を危惧していた。でも福島にいた1990年代末、僕は「大丈夫では」と思っていた。正確に言えば、そう信じたかったのだと思う。この大丈夫と思いたい思考回路が、心理学で「正常化バイアス」や「公正世界仮説」と呼ばれ、社会の改善を失わせると知ったのは作家になってからだった。

 時間が経(た)つと、何が真実だったかわかる。大江さんの危惧は残念ながら的中した。

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