- ツイート
- みんなのツイートを見る
- シェア
- ブックマーク
- 保存
- メール
- リンク
- 印刷
厚生労働省は、女性特有の健康上の問題に関する研究や治療の司令塔となるナショナルセンターを創設する。国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)内に2024年度中の設置を目指す。
女性は人生の段階ごとに、ホルモンバランスの変化に応じてさまざまな健康上の問題が生じる。情緒不安定や頭痛などの症状が表れる月経前症候群(PMS)、閉経前後にほてりやめまいが起こる更年期障害などだ。病気によっては、男女間で発症率に偏りがあったり、症状の表れ方が異なったりする。
「女性の健康問題を総合的に支援し、一人一人が女性特有の健康問題を理解していただくことが必要だ」
加藤勝信・前厚労相は8月末、自民党の議員連盟の顧問として経団連との意見交換の場に出席すると、ナショナルセンターの意義を強調した。厚労省は24年度予算の概算要求に、センターの構築費用25億円を盛り込んだ。
ナショナルセンターには、どんな機能を持たせるのか。厚労省によると、他の医療機関や研究機関と連携し、女性特有の疾患に関するデータを収集したり、解析したりする。製薬企業との治療薬の共同開発や、研究成果の発信、政策提言にも取り組む。
女性の体調不良は多岐にわたり、産婦人科や心療内科など、どの診療科が担うかが不明確な場合も多い。こうした患者が受診できるよう、臨床も視野に入れている。厚労省の幹部は「これまでの日本の診療科の体系と異なる、ワンストップで対応できる臨床機能が必要だ」と話す。
健康面での男女の違いに着目した医療は「性差医療」と呼ばれ、日本は海外より遅れてきた。
米国では臨床データの対象が男性中心であることに医師から疑問の声が上がったのを機に、1986年に国立衛生研究所(NIH)が女性や少数民族、人種を調査研究の対象にするよう通達した。90年には、NIH内に「女性健康研究局(ORWH)」が設置され、性差医療が大きく進んだ。
日本でも00年代に性差医療の考え方が広まった。自民党は14年と16年、女性の健康支援や調査研究の推進を目的とした「女性の健康の包括的支援に関する法律案」の成立を目指したが、いずれも廃案となった。
ただ、成育医療の施策について基本理念などを定めた「成育基本法」が19年、施行された。これを受け、23年3月に閣議決定された基本方針には「女性がライフステージごとに、健康状態に応じて的確に自己管理するためのヘルスケアの推進」などが盛り込まれた。
厚労省幹部は「やっと巡ってきたチャンス。遅まきながら頑張りたい」と意気込みを示す。
専門家「情報発信を」
「女性の疾患について米国で集められたデータは、体格が異なる日本人には当てはまらない可能性がある」。女性の健康に詳しい西岡笑子(えみこ)・順天堂大教授(母性看護学)はそう話し、ナショナルセンターによる国内での研究の進展に期待する。
女性が健康で活躍できる社会を実現するには、センターの積極的な情報発信も重要だという。日本ではこれまで、生涯にわたる女性の健康について十分に学ぶ機会が提供されてこなかったためだ。
西岡教授は、妊娠希望の有無に関わらず妊娠可能な年齢の女性とそのパートナーを対象に、適切な知識や情報を提供し、将来の妊娠を見据えたヘルスケアをする「プレコンセプションケア」の重要性を指摘する。
「例えば妊娠前の女性の生活習慣の乱れや痩せすぎなどが、妊娠や出産、新生児の健康に影響する。プレコンセプションケアに関する知識の啓発が必要だ」
さらに妊娠に関わらず、次のように提言する。「月経の悩みや更年期症状など、我慢せず医療機関を受診することが大切。女性が健康で活躍するために、ナショナルセンターはこうした知識を積極的に伝えてほしい」【添島香苗】