特集

ラグビーW杯・フランス2023

2023年9月開催のラグビー・ワールドカップ(W杯)フランス大会の特集ページです。

特集一覧

Allez!!

静と動「理念」の戦い ラグビーW杯 「母国」にぶつけた日本の誇り

  • ブックマーク
  • 保存
  • メール
  • 印刷
【日本ーイングランド】イングランドのアール(中央)を倒すピーター・ラブスカフニ(下)=仏ニースで2023年9月17日、AP 拡大
【日本ーイングランド】イングランドのアール(中央)を倒すピーター・ラブスカフニ(下)=仏ニースで2023年9月17日、AP

ラグビー・ワールドカップ(W杯)フランス大会 1次リーグD組

●日本代表12―34イングランド代表〇(17日、ニース)

 互いが信じるラグビーの「理念」をぶつけ合うプライドをかけた戦いだった。

 イングランドは重いFWを中心として堅守とキックで攻め込んでいく。ずっしりとした重圧は徐々に相手を疲弊させ、動きを鈍らせる。派手さはないが勝つことに徹するスタイルだ。

 一方の日本が積み上げてきたのは速さ、技術。2019年W杯日本大会ではキックからアンストラクチャー(混迷した状態)を作り、急襲するスタイルで初の8強入りと躍進。近年は細かくパスをつないでスペースをこじ開ける戦術でも強豪と距離を近づけてきた。

練習で指示を出すラグビー日本代表のトニー・ブラウンコーチ=東京都内で2019年9月2日午前9時38分、竹内紀臣撮影 拡大
練習で指示を出すラグビー日本代表のトニー・ブラウンコーチ=東京都内で2019年9月2日午前9時38分、竹内紀臣撮影

 ジャパンラグビーの確立を後押ししたのが、16年にジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)とともにチームに加わったトニー・ブラウン・コーチだ。ニュージーランド出身で攻撃面を担当し「イノベーティブ(革新的)なラグビー」の重要性を強調。展開によって柔軟に攻撃の形を変えるスタイルを浸透させた。

 ブラウン・コーチは試合前、「イングランドはいつも同じ(戦い方)。100年近く、そのスタイル」とした上で「ジャパンラグビーは速いラグビー、ボール運びが大切。常にスピードを意識して、自分たちを出すことができればチャンスがある」と分析。「静」のイングランドに対して「動」の日本流で臨むと明言して、対決姿勢を鮮明にした。

 特に前半は想定通りの展開になった。キックを多用しながら重圧をかけてくるイングランドに対して、日本は粘り強い守りで耐え、ひとたびボールを奪えば一気にバックスでパスを回して突破を試みたり、裏のスペースに攻撃的なキックを狙ったりと自在に仕掛けた。あと一歩のところでミスが起きてトライを奪うには至らなかったが、前半は9―13と十分に相手の背中が見える展開で折り返した。

【日本-イングランド】前半、松田力也(奥)がジョージ・フォードのキックをチャージ=仏ニースで2023年9月17日、AP 拡大
【日本-イングランド】前半、松田力也(奥)がジョージ・フォードのキックをチャージ=仏ニースで2023年9月17日、AP

 しかし、イングランドサポーターからもブーイングが起きるほどキックを多用する相手の戦術に、日本の選手たちの体力は徐々に奪われていった。中盤から終盤に差し掛かる頃には、あちらこちらにスペースが出現。リーチ・マイケル選手(東芝ブレイブルーパス東京)は「僕らが蹴っても(すぐに)蹴り返してくる。キックチェースの繰り返しでダメージが大きかった」という。後半16分に相手の頭に当たって転がったボールをインゴールに運ばれる「不運」な形で突き放されると、その後はイングランドの勢いを止められなかった。

 ラグビーの母国に対して日本が進んできた道、その力の一端を突きつけることはできた。だが、試合後に残ったのは善戦への喜びではなく、相手の術中にはまりノートライに終わるという現実への悔しさだ。ジョセフHCが「たくさんのチャンスがあったが生かし切れなかった」と言えば、主将の姫野和樹選手(トヨタヴェルブリッツ)も「後半の疲れた時にプレーの判断、精度、クオリティーをもっと研ぎ澄ませないといけない」と振り返った。

 日本は100%の準備をして、全ての力を出し切っただけに反動は大きい。それでもサモア戦、アルゼンチン戦とW杯は続く。ジャパンラグビーの強さ、武器を証明するためには、悔しさを乗り越えて、ピッチ上で表現し続けるしかない。【ニース角田直哉】

関連記事

あわせて読みたい

マイページでフォローする

この記事の筆者
すべて見る

スポニチのアクセスランキング

現在
昨日
1カ月

ニュース特集