伝えることが仕事なのに、なぜ書いてはダメなのか――。
ジャーナリストの青木理さん(58)は共同通信の記者時代、公安警察の実態を書こうとしたが、記者クラブの上司に反対され、そんなジレンマに陥った経験がある。
「記者クラブの体質は今も変わらないのではないでしょうか」
警視庁公安部による冤罪(えんざい)事件「大川原化工機事件」の報道についても警鐘を鳴らす。
長年、公安警察の動向を追ってきたジャーナリストに、警察とメディアのあり方について聞いた。【聞き手・遠藤浩二】
大川原化工機冤罪事件に各界の人たちは何を感じたのか。
5月に予定される国家賠償請求訴訟の2審判決を前に、著名人たちのインタビューを随時アップします。
青木さんは記事の後半で、大手メディアが「書くべきものを書けない」原因を自己反省を含めて語っています。
このシリーズでは、ミステリー作家の深町秋生さん、時事芸人のプチ鹿島さんのインタビューがあります。
本出版の相談、キャップに相手にされず
――フリーになる前、共同通信の記者をされていました。1994~96年には警視庁記者クラブに所属し、公安部を担当していたんですよね。
◆当時、会社の先輩だった魚住昭さん(ノンフィクション作家)から「大した事件もない公安担当をなぜ引き受けたんだ」と言われました。
ところが、95年3月に地下鉄サリン事件が発生するなどし、全国警察はオウム真理教への「総力戦」ともいうべき捜査に乗り出し、公安部はその中核を担います。
以後の数カ月、連日原稿を書き続けました。
通信社は、新聞社のように紙面を持っているわけではなく、主に地方紙などへ記事を配信する会社です。
配信の際に記事の重要性の指定もしていて、当時書いた記事はほとんどが1面トップ指定でした。
――そして2000年1月、「日本の公安警察」(講談社現代新書)という本を出版します。どのような経緯があったのでしょうか。
◆取材をしていると、オウムを追いかけ回している公安部も相当やばい組織だと気づきます。
こじつけとしか思えない別件や微罪での逮捕を連発し、監視対象と定めた団体の内部にスパイを獲得・運営する作業を営々と繰り広げている。
また、「サクラ」とか「チヨダ」などと呼ばれる裏部隊も擁し、さらには信書開封や窃盗、そして組織的盗聴といった違法行為にまで手を染めてきた。
オウム事件でこれだけ公安警察が注目されたなら、それがどういう組織で一体何をしているのかについても、担当記者としてはきちんと書くべきでしょう。
だから警視庁記者クラブの上司だったキャップに「公安警察の活動実態も書きたい」と相談しましたが、相手にもしてもらえませんでした。
ペンネームで雑誌に記事
――私も大川原化工機事件について公安部の捜査を批判する記事を書いていますが、当初は社内から慎重論がありました。
◆記者クラブ制度の是非はさておき、自分が担当する組織や取材対象の内実を伝えるのは記者の仕事でしょう。
なのに、それがなかなかできないことに当時の私もいら立ちを感じていました。
今だから明かしますが、公安捜査の内幕をペンネームで雑誌に寄稿したりもしていました。
そんななか、魚住さんから講談社の編集者を紹介され、書くことになったのが「日本の公安警察」です。
結果、社内の一部からは批判され、公安部の情報源ともほとんど関係が切れてしまいましたが……。
――公安部…
この記事は有料記事です。
残り3060文字(全文4474文字)